ふくおか県酪農業協同組合

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検証・2024年度畜酪決定 課題先送り、乳価算定の限界露呈 今後の焦点「改正畜安法」「次期酪肉近」「飼料輸入依存是正」
写真=2023年の農水省基本法検討部会は適正価格実現も大きなテーマとなった。だが、生乳では現実問題として「価格と需要」という難しい課題を抱える。
2024年1月の畜酪関係新年会は、24年度畜酪政策対策を振り返るとともに、今後の課題として生乳需給是正策の継続、次期酪肉近の検討などが語られた。24年度畜産酪農政策価格・関連対策は、「畜酪危機」が続く中、政策価格などで政治的配慮を示す内容だが、多くの課題は実質先送りとなった。直近のコストを反映しない現行補給金制度の算定の問題点も改めて課題となったと言えよう。畜酪決定内容を〈検証〉して今後の課題を探る。
価格と需要の均衡に苦慮
首都圏抱える関東は事実上「乳価据え置き」か
新年の酪農乳業関係団体のトップあいさつは、元旦の能登地震の悲劇もあり、2024年の困難さを象徴する言葉であふれた。
実際にいくつかの賀詞交歓会に参加して、特に筆者が気に留めたのは二つ。まず、関東生乳販連新年会。理論家でもある関東生乳販連の菊池一郎会長の2024年度飲用向け生乳価格交渉でメーカーに「現行価格以上」を要求すると明らかにした。事実上の「価格据え置き」を求めたものだ。生乳需給が思わしくない。飲用需要は前年対比95%前後のまま。一方で、コストは高止まり。乳価引き上げ要求を打ち出したいのはやまやまだ。だが、菊池会長は「酪農家の苦しさ変わらない。しかし、需要あっての生乳生産だ」と声を絞り出した。関東生乳販連は巨大な首都圏マーケットを持つ。それでも、消費者の度重なる牛乳価格改定が、需要落ち込みに連動しかねないことを肌で感じている。苦渋の決断は事実上の飲用乳価据え置き要求だった。
もう一つ。乳業8団体賀詞交歓会。最大手・明治HDの川村和夫社長と言葉を交わした。「酪農家の窮状は十分理解している。だからこそ、需要低迷の中でも初めて数度の乳価引き上げに応じてきた。だが、一方でこれ以上の牛乳価格改定は飲用牛乳マーケットの縮小につながりかねない」との認識だ。2024年は、価格と需要の難しい対応に苦慮する1年となる。
農政の方向性も示す
「先行指標」畜酪論議は不完全燃焼
話は年末の2024年度畜酪論議に戻る。今回の畜酪が関係者の注目を集めたのは、「畜酪危機」の打開策を探るのはもちろんだが、単なる畜種別の対策がどうなるかなどではない。今後の農政の行方を占う〈先行指標〉としての位置づけがあったためだ。
まず、生産基盤維持と直近のコスト高をどう政策価格に反映するのか。「国産シフト」を強調する食料安全保障、四半世紀ぶりの食料・農業・農村基本法見直し、それに伴う今後10年間の品目別目標生産数量と連動する次期酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)の在り方。「2024物流問題」も絡む加工原料乳の集送乳調整金の算定をどうするのか。
さらに、日本農業のアキレス腱ともされる畜酪振興と飼料海外依存からの脱却をどう進めていくのか。国産飼料拡大は、飼料用米、発酵粗飼料(WCS)用稲や濃厚飼料代替の子実用トウモロコシ増産といった水田農業の今後の方向とも密接に絡む。いわば今回の畜酪論議は、食料安保再構築の大きな農政の流れの中での〈先行指標〉とも言えた。
農業全体の大きな課題であるコストを反映した適正価格実現では、加工原料乳生産者補給金単価をどうするのかが、今後の乳業メーカーと指定生乳生産者団体(指定団体)との乳価交渉、特に都府県も含めた全国酪農家の手取り価格に直結する飲用乳価交渉にも影響を及ぼす。
飼料輸入依存は「時限爆弾」
しかし24年度畜酪決定を〈検証〉すると、今後の課題はほとんど先送りされ、傷口の出血を止める弥縫策がとられた。こうした中で今回、議論されなかった日本農業の根本問題、飼料海外依存は「時限爆弾」となって残り、基金不足など財源問題で早晩大きな課題に直面するのは間違いない。
配合飼料価格安定制度は民間の積み立てによる「通常補てん」と、異常な高騰時に通常補てんを補完する「異常補てん」(国と配合飼料メーカーが積み立て)の「2段構え」で、生産者への補てんを行う。基本法見直しの契機ともなったように、地球規模での食料争奪、穀物価格高騰に対し政府はこの間、飼料価格高騰・高止まり対策で総額2000億円以上の緊急支援を行ってきた。
問題は、ウクライナ紛争の長期化、中国の食料、穀物買い占めなど配合飼料価格の先行きが見通せないことだ。現行の配合飼料価格制度はトウモロコシなど飼料穀物価格の上げ下げによって成り立つ。補てんが滞れば、一挙に国内畜酪経営は窮地に追い込まれる。そこで持続可能な制度の在り方、特に輸入飼料依存で成り立つ畜酪からの根本的な転換、水田農業とパッケージでの飼料自給率アップを官民挙げて実現する大胆な政策変更が欠かせない。
「白」vs「赤」、あるいは酪農vs肉牛
これまでにも増して政治的配慮となった今回の畜酪を政治力学から見よう。畜酪論議は白と赤のせめぎ合い、あるいは有力産地を抱える北海道と南九州選出の国会議員の力量が問われる結果となる。「白と赤」とは牛乳(酪農=北海道)と肉(肉牛=九州)を象徴する。この視点で見ると、やはり有力農林議員がそろう九州勢の「突出」が目立つ。
その影響は、単年度事業だった和子牛補てん事業の継続。さらに、価格が下がった時の補てん基準となる肉用子牛の保証基準価格は、黒毛和種で1頭当たり56万4000円となり、現行55万6000円から一挙に8000円も上がり関係者の間で驚きの声も出た。引き上げは想定されたが55万円台と見る向きが多かったからだ。
酪農も、本来の北海道選出国会議員の働きかけに加え、自民党の江藤拓農林調査会長の「これ以上酪農家が減っては問題だ。補給等総額でも前年を上回る水準を確保したい」との強力な一言が財政当局を動かしたともされる。最終的に補給金等で377億円と現行を2億8000万円上回り、関連対策などの補助事業を対応するALIC分を合わせると総額392億7000万円と現行に比べ7億円超の上積みとなった。江藤氏は衆院宮崎2区選出だ。
農政工程表「森山カレンダー」
農政全般を取り仕切るのは自民農林最重鎮の森山裕党総務会長(衆院鹿児島4区)。食料安保をライフワークにし基本法見直しでは、「森山カレンダー」と称される日程表に基づいて具体化が着実に進む。むろん、畜酪決定でも絶大な力を発揮した。基本法見直しを政府側から取り仕切った野村哲郎元農相(参院鹿児島選挙区)、急きょ登板した坂本哲志現農相(衆院熊本3区)など、九州は有力農林議員の層が厚い。坂本農相の派閥は森山派で食料安保新法、基本法見直しの総仕上げに尽力する構えだ。
北海道に剛腕代議士〈不在〉
一方で、日本最大の食料基地・北海道の議員はかつての面影はない。ここ数年では衆院北海道2区選出だった吉川貴盛元農相が、「政治とカネ」も絡み2020年末に辞めたことも大きい。かつて吉川氏は「支援の上積みが必要だ。酪農はこのままでは済まん」と農水官僚に迫り、押しの強い代議士として威力を発揮した。こうした剛腕議員が北海道には見当たらない。
官邸農政主導の「改正畜安法」
最終局面は「補給金」「和子牛」「畜安法」
政府・与党の折衝で最終的に残ったのは3点セットだ。加工原料乳補給金単価・総交付対象数量、単年度措置の和子牛補てん事業の扱い、酪農生産現場の不公平感を招いている改正畜安法の運用改善である。
生産者手取りとなる加工原料乳補給金が最終的な焦点となるのはいつものことだ。特に酪農は関係団体が多く、政治力も強い。今回のコスト高止まりを反映し、補給金単価アップ早くから決まっており具体的な上げ幅が問題となった。また財政事情が厳しい中で、単価アップの場合はかつての限度数量である総交付数量を一定程度削減することで、財政規模を抑えることを財政当局は強く求めた。脱脂粉乳過剰による生乳需給緩和が交付数量削減の根拠だ。
畜産では、単年度措置の和子牛補てん事業の存続が課題となった。自民党内農林議員の力関係が、九州選出議員で大きくなっておりそれを反映した動きだ。結果的に「優良和子牛生産推進緊急交付事業」として衣替えしながら継続した。通常、予算で「緊急」と銘打つ場合は単年度措置で、継続するのには事業名と内容を多少変更する。今回はその典型だ。
欠陥「畜安法」の課題
改正畜安法見直しは、根が深い。
酪農制度改革は、安倍政権下の官邸主導農政の中で、JA全中の農協法外し、JA全農事業改革論議などとともに法改正が行われた。つまりは安倍官邸農政の悪しき〈残滓〉と言える。安倍政権下で、自民党の農林部会長として農政改革、いや改悪に当たった小泉進次郎氏は、TPPをはじめ官邸と歩調を合わせ農政改革、規制緩和、自由化を積極的に進めた当時の農林幹部・西川公也元農相の後ろ盾で辣腕を振るった。酪農制度改革で指定団体の機能維持を要請した酪農団体幹部に小泉氏は「現行制度に大胆なメスを入れる以外にない」と言い放った。結果、指定団体の生乳一元集荷機能は後退し、流通自由化となる。これまで基本的に指定団体という一つだった水道の蛇口を、制度上で何本も認めることになった。需給ひっ迫の時にはいいが、現在のような深刻な過剰下では需給コントロールが効かくなくなる。指定団体傘下の酪農家以外、生産抑制に協力しないからだ。これでは、酪農家内部の不公平感を拡大させ、内部対立を招く。改正畜安法施行以降、全国生乳の6割を占める加工原料乳地帯・北海道内で起きていることだ。
改正畜安法は、暫定法だった加工原料乳補給金制度などを廃止し畜安法に組み込むことで進めたが、問題は指定団体の生乳一元集荷・多元販売、生乳無条件委託を廃止したことだ。つまりは流通自由化だ。酪農家は出荷先を自由に選び、複数の「二股出荷」も可能となる。
指定団体は一元集荷の機能を失い95%前後あった共販率の低下が懸念された。そこで「経営安定法」ではなく「経営不安定法」への改悪とも指摘されている。酪農制度改正は当初から懸念されてきた問題が今、噴出していると見ていい。今回の畜酪論議でも生産現場が訴える「生産者の分断」は、指定団体の系統出荷者と自主流通の系統外者、さらにはいいとこ取りの「二股出荷」といった酪農段階の分断、混乱が根本にある。
加えて、指定団体の一元集荷体制が弱体化したことで生乳全体需給のコントロールが効かくなくなったことだ。改正畜安法は生乳過剰下では、先述した「経営不安定法」として機能している。
同問題は与党内の議論や政策価格・関連対策を話し合う農水省の食料・農業・農村政策審議会畜産部会でも大きな議題になった。結果的に、「二股出荷」などで生乳出荷量変更に期限を設け指定団体が受託拒否できる省令改正などを検討することになった。ただ、無条件委託がなくなった指定団体は、組合間の公平な対応など公正取引委員会の監視も受ける。省令改正では小手先の見直しで限界にきている。年明け国会で基本法見直しとあわせ、農地関連法や担い手関連法などの見直しも予定されているが、改正畜安法の抜本改革を求める声があるのも当然だ。
北海道増産への配慮も
交付対象削減分の救済措置
毎年、最終局面まで難航する酪農の補給金単価と総交付対象数量の扱い。P(単価)×Q(数量)=総額の計算で、財政規模と直結するからだ。コストが上がれば、ある位程度は単価に反映される。だが乳製品仕向けの加工原料乳の交付金対象枠が減ればその分、飲用向けなどに回らない限り乳価が下がる計算だ。結果的に各用途を総合したプール乳価水準が下がる。
今回の決定は、別の要因も配慮した。生乳全体の約6割を占める北海道が2024年度生産量を前年度計画対比1%増の403万トンに決めた。これまでの生産抑制型からの転換だ。大型酪農家の多い北海道は、生産抑制が経営収支に響く構造だ。脱粉過剰対策をしつつ不足も懸念されるバターの安定供給にも対応する水準とした。これ以上、生産抑制を続ければ系統外への出荷が増えるとの指摘もある。
こうした中で、24年度総交付対象数量は325万トンと前年度5万トン削減したものの、農畜産業振興機構(ALIC)事業で別途、18万トンを手当てし、5万トン削減分を実質的に救済した。農水省はレトリックを駆使しながら一般的には極めて分かりにくい説明で、交付数量とALIC事業との関連を説明している。そこには、強い政治的配慮が働いたのは間違いない。ただ、ALIC事業は原則、単年度で2024年度に脱粉過剰是正などが迫られることに変わりはない。さらには、北海道が最大産地・十勝をはじめ前年の猛暑で乳牛に相当のダメージが残っている中で、実際に24年度生産の見通しが立てづらいのも実態だ。
このままでは「縮小需給均衡」
消えた「生産基盤の毀損回避」
酪農は離農拡大に伴い結果的に生乳需給緩和を是正する「負のサイクル」である「縮小均衡」に陥る恐れがあります。酪農乳業界の合言葉であった「生産基盤の毀損回避」も聞かれなくなった。それだけ離農加速を物語る。
これまでは比較的、順調な需要拡大に沿って生乳性生産を拡大してきた側面がある。だが、コロナ化で一転した。官民挙げた酪農生産基盤の後押しの中で、需要急減、特に脱脂粉乳の過剰が深刻となり、まずは消費拡大、次の段階では乳牛淘汰などを通じて生産抑制型に転換せざるを得なくなった。離農拡大が結果的に減産と需給是正にとながるのは、国内酪農の縮小につながりかねず本来あるべき姿ではない。乳業メーカーも原料調達に不安が出る。まずは官民挙げた需給緩和の是正を急ぐことが欠かせない。
カギ握る官民挙げた需給調整の仕組み
畜酪の中でも酪農が特に苦境に立つのは、牛・豚で生産コストを償うマルキン制度のようなセーフティーネットの仕組みが整っていないことが大きい。
酪農版マルキン実現を求める関係者もいるが、否定的な考えが強い。生乳需要は用途別に複雑で一律に生産者段階を政策的に支えれば、かえって生産過剰を招き乳価低迷、乳製品過剰在庫、最終的に乳業メーカーの買い取り数量が減り酪農家が減産を余儀なくされる。
生乳需給は歴史的に過剰と不足を繰り返してきた。内橋政敏Jミルク専務は「過不足を前提とした生乳需給調整の仕組み、セーフティーネットの構築が欠かせない」と強調する。現在、脱粉過剰解消に向けた官民の体制がとられている。だが、系統外は加わっておらず、酪農乳業全体の取り組みとなっていない。それが指定団体傘下の酪農家の不公平感ともつながっている。
JAグループは政策要求で中長期的な需給安定化に向けて「指定事業者以外からの拠出も得たうえで、継続的な仕組みへの見直しに向けた環境整備を進める」を挙げた。 生産者段階では、乳製品ばかりでなく飲用向けも含めた生乳全体の需給調整機能を持たせる100億円規模の基金造成といった指摘もある。持続可能な畜酪は、結局は国民への安定的なたんぱく質食資源提供で、食料安保につながる。需給安定化に向けた酪農セーフティーネット構築は、今後の畜産部会での次期酪肉近論議の大きな焦点となる。生産現場が省らに希望と期待が持てる将来展望が、酪肉近論議では問われる。

(次回「透視眼」は4月号)