ふくおか県酪農業協同組合

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コロナ禍、天候不順で脱粉在庫急増10月需給見通し一段と「悪化」
生乳需給に、これまでにない「異変」が起きている。9月上旬の需給最需要期に北海道から本州への生乳移出が5万トン台と低調で、道内の乳製品在庫、特に脱脂粉乳の過剰が深刻だ。コロナ禍に加え、本州での長雨など天候不順が要因だ。脱粉期末在庫は10万トンを超す。
9月道外移出6万トンの大台割れ
生乳生産は夏場の一時的な停滞から盛り返す一方で、コロナ禍の業務用需要減や天候不順から飲用、乳製品とも振るわず、大型工場がある道内で在庫がたまる構図が一段と強まっている。
Jミルクが10月1日に発表した2021年度生乳需給見通しは、前回の7月時点での見通しより需給不均衡がさらに深刻となった。例年、学乳が始まる9月に都府県の牛乳の原料手当が問題となるが、今年は同月の道外移出見込みは5万5000トンと、20数年ぶりに6万トン割れとなった。
酪農団体が緊急対策要請
今後は、需給緩和に伴う乳製品過剰在庫の扱いが政治問題化する可能性がある。

酪農政治連盟は8月下旬、自民党酪政会総会で乳製品過剰在庫解消などを緊急要請した。出席議員からは、過剰在庫が生乳生産調整につながらないか懸念する声などが出た。
国は、直近の需給状況を踏まえ10月1日に国家貿易の輸入乳製品枠を判断したが、乳製品過剰の状況を踏まえ、バターについては9500トンに拡大した。
コロナ禍、学乳キャンセルも
酪農・乳業界の重要課題の一つは9月上旬の生乳需給逼迫にどう対応するのか。だが今年は全く様相が異なった。
例年は、JA全農の広域需給調整を通じ生乳不足の首都圏などに北海道からミルクタンカー「ほくれん丸」を満載にして運ぶ。だが今年はオーダーが少ない。逆に不足分を道産乳で補うどころか、指定生乳生産者団体の関東生乳販連は「生産が伸び、乳製品に仕向ける加工処理が例年より多い」との事態となった。最需要期に大消費地である首都圏での加工発生は極めて異例だ。それだけ生乳需給緩和を裏付ける。
不順天候で飲料系の需要が伸びないことに加え、コロナ禍で小中学校の夏期休暇の学校再開を1、2週間遅らせるケースも出ている。それが学校給食向け牛乳のキャンセルにつながり、道産生乳の移出減少にも直結している。
感染拡大先行き不透明
こうした需給緩和を裏付けるように、Jミルクの最新の生乳需給短信(週報)は、今後の不透明感を増す動向を示した。
コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言の適用地域拡大の影響だ。8月末から9月上旬は、小中学校の夏期休暇が終わり、同時に学校給食牛乳の時期と重なる。一方で夏ばてから乳牛の生産性は落ち最も生乳需給逼迫となり、通常は北海道から首都圏など都府県へ月単位で7万トン近い大量の生乳の道外移出が迫られる。
それが、夏期休暇の延長、自宅でのオンライン授業など学乳再開にも影響が出ている。つまりは生乳需給動向にも連動する事態だ。
このため同短信は、コロナ禍の需給動向に注視すると共に、業務用需要の低迷が長引く中で、一層の牛乳・乳製品の家庭内消費の底上げを呼びかけた。

同短信で、一つだけ好材料は足踏み続けていたヨーグルト需要の一部に好転の兆しが見えてきたことだ。約1年ぶりに個食タイプの需要が上向いた。ドリンクタイプ、大容量タイプは引き続き苦戦を強いられている。先の食生活調査の消費動向が反映されつつあるのかもしれない。
乳業も両極の「K字型」に
コロナ禍は、同じ業種でも事業展開、商品展開によって明暗が分かれ業績が上下に開く〈K字型〉となる傾向が強い。
大手乳業の第1四半期(4~6月期)でも同様だ。最大手・明治HDは巣ごもりの反動から主力ヨーグルト足踏みで減収減益となった。他方で雪印メグミルク、森永乳業とも増収増益を記録した。明治は、免疫力を強調したプロバイオティクスの主力商品R―1が苦戦した。一方で機能性を重視した雪メグ、森永は順調に販売を伸ばした。
ヨーグルトは、最大手・明治の業績動向が全体需要に大きく影響する。もっともR―1は前年売れすぎた反動でもあり、今後の販売巻き返しを強化する。
脱粉在庫18年ぶりの高水準に
Jミルクが繰り返し、牛乳・乳製品の家庭内需要を強調する背景には、全国の6割の生乳生産を持つ北海道での乳製品在庫の深刻さがある。
特に過剰感が強いのが脱脂粉乳だ。ヨーグルト消費拡大は原料となる脱粉需要に直結する。それだけに、関係者の間ではこれまで以上にヨーグルト需要の推移に注目が集まっている。
こうした中で、脱粉在庫は18年ぶり高水準に達する見込みだ。既にホクレンは、生産者自らの取り組みとして国産の輸入代替に取り組んでいる。財源は昨年度と今年度の2年間で約90億円に達する。プール乳価でキロ2円超に相当する。つまりは酪農家の負担で在庫処理に取り組んでいるわけだ。需給状況によっては、今後、国にもさらなる対応を求める声が高まる見通しだ。
続くコロナ禍と需要減
国や関係業界の酪農生産基盤強化策が功を奏し、今のところ全国的に生乳生産は増産基調が続く。
ただ、酪農も「豊作を素直に喜べない」コメと同様に増産が所得増には必ずしも結び付かない事態に追い込まれかねない。
デルタ株の猛威でコロナ禍の先行きが見通せず、緊急事態宣言は大消費地に拡大し外食など業務用需要の回復は進まない。道内に乳製品基幹工場をいくつも持つよつ葉乳業は「乳製品在庫は限界を迎えつつある。特に脱脂粉乳が動かない」と危機感を募らせる。最大手・明治は「猛暑とコロナで、今後の原料調達と用途別需要が極めて読みにくい」と見る。
14年ぶりナラシ発動の意味
コロナ禍の生乳需給混乱は、2020年度のバター、脱脂粉乳など加工原料乳を対象に14年ぶりに価格差補填を行うナラシが発動されたことからも明らかだ。
ナラシ制度は酪農経営安定へのセーフティーネットと位置づけられている。だが3年平均の基準価格を下回らないと発動されず、機動的に経営安定につながるのか疑問視されてきた。14年ぶりの発動は、コロナ禍で業務需要が減りいかに価格低下が進んだかを裏付ける。そして、こうした生乳需給混乱の中でも生乳廃棄に至らなかったのは、国の支援を受けながら指定団体の臨機応変な広域需給調整や北海道を中心とした乳製品加工対応が功を奏したからに他ならない。
14年ナラシ発動の意味は、指定団体の機能発揮との絡みでとらえるべきだ。


(次回「透視眼」は12月号)