ふくおか県酪農業協同組合

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岸田政権2年 虎優勝は政局の歴史 宮下新農相で食料安保加速
基本法見直しの最終答申を受け取る野村哲郎農相(右、当時)
写真は基本法見直しの最終答申を受け取る野村哲郎農相(右、当時)
岸田政権は10月4日、発足から2年を迎えた。同時に衆議院議員任期は10月末で丸2年となり、いつ解散・総選挙があってもおかしくない。9月内閣改造に伴い、農政は食料安全保障をキーワードに宮下新農相の政策運営も本格始動した。酪農は生乳需給の難しいかじ取りが続く。
激動の野村農相「400日」
自民党農林族の中でも有数の幹部・野村哲郎氏が担った400日の農相期間は、今後の農政上で重要な意味を持つ。9月の内閣改造を経て退任時、「もうすぐ80歳、いやぁ、くたびれました」と笑顔を見せた。
野村氏は11月20日に満80を迎える。農林代表として鹿児島選挙区から参院選4期目。元農相の箔も付き地元では最大に「傘寿」祝いを行うことだろう。筆者は同氏が参院選出馬時に意見表明をした日のことをよく覚えている。東京・大手町の農協ビル(当時)8階国際会議室。隣には大きな政治力を誇る鹿児島中央会会長の川井田幸一氏が椅子に座っていた。野村氏は鹿児島中央会常務出身だ。当選後、農協代表の自民農林族幹部として数々の職務を担う。その「集大成」が念願の農相就任、食料有事が叫ばれる中での、食料・農業・農村基本法を見直し日本の食料安全保障再構築だった。
農水省の審議会検証部会に基本法見直しの諮問、5月末の中間まとめ、そして9月11日の最終答申まで農相の地位にいたのは幸いだった。同氏は農水省幹部、国会答弁でも「今農政はターニングポイントを迎えている」と繰り返した。大転換期、今後の農政は年明けの通常国会での基本法見直し法案、関連法案提出と進む。
「Mr中山間地」」宮下新農相
野村氏の後任として新農相には自民党農林部会長などを務めた宮下一郎氏が就任した。衆院長野5区選出、6期目の65歳。最大派閥・安倍派の出身だ。
実は前回の2022年8月の内閣改造期にも野村氏か宮下氏のどちらかが農相になるのではないかとの声が強かった。高齢の野村氏が一段ロケット、ひと回り以上若い宮下氏が2段目のロケットとして食料安保路線を軌道に乗せる役割を担うことになる。政権がそこまで考えているかは分からないが、野村、宮下両氏は一つの農政主流派の基軸で、一貫した政策展開が可能となる。ベテランの農林重鎮の後継には、やや畑違いの国会議員が農相に就くケースもある。今回は改正法案提出を控え、元農相で農林族の最高幹部・森山裕総務会長の押しもあり宮下氏が農相となった。
長野県が地元ということもあり、条件不利地、中山間地域振興への思い入れが強い。党の「中山間地農業を元気にする委員会」初代委員長を務め、同僚議員からはミスター中山間地とも呼ばれる。
新農相は生乳需給緩和も認識
宮下氏は党畜産・酪農対策小委員長も務めた。東京大学経済学部卒後、住友銀行(現三井住友銀行)に勤め、衆院議員だった父・宮下創平氏の後を継ぎ2003年衆院選で初当選をした。同期に衆院熊本三区選出で畜酪問題に精力的にかかわる坂本哲志氏がいる。宮下氏は農相就任会見で農政の哲学に関連し「市場メカニズムは必ずしも全体にとって最適なものとして機能しない」として、農畜産物も念頭に「持続可能な適正な価格が維持できる社会にしていかなければならない」と強調。畜酪では喫緊の課題として飼料価格の高止まり対応と生乳需給緩和対策を挙げた。
自民、政府、団体いずれも〈九州人脈〉
9月の閣僚、官邸、農水省、自民党幹部人事、その1カ月前の8月18日には農業団体の頂点・JA全中の幹部人事もあった。そこで目立つのは、鹿児島を筆頭にした九州人脈だ。
衆院鹿児島4区選出の森山元農相が党三役の一角で党の常設の最高意思決定機関・総務会を差配する総務会長となった。同氏は野村農相と2歳違いの78歳だが、引き続き農林議員としての自身の集大成「食料安保」構築に尽力する覚悟だ。党農林幹部会・インナーには農相を離れた野村氏が復帰する。首相補佐官には衆院九州ブロックで鹿児島出身の元農水副大臣、党農林部会長などを務めた小里泰弘氏が新たに入った。小里氏は農林漁村地域活性化を担当する。
農水副大臣には自民党衆院議員の鈴木憲和氏(山形2区)、武村展英氏(滋賀3区)を充てた。鈴木氏は農水省出身で党青年局長、コメの需要拡大・創出検討プロジェクトチーム(PT)座長を務めた。若手農林議員として山形の農業団体と関係が強い。一方で同じ若手で安倍政権下だった2010年代後半のTPP国内対策、農政改革、全農改革を党農林部会長として仕切り農業団体と軋轢も生んだ改革派・小泉進次郎氏とも友好関係にある。
一方で8月の全中会会長改選に伴い鹿児島中央会会長で農業団体の政治組織・全国農政連会長だった山野徹氏が新会長に就いた。山野氏は地元・JAそお鹿児島で営農指導員などを経験し地域農業振興に尽力した経歴を持つ。全中2副会長のうち一人は佐賀中央会会長、もう一人の政策担当は北海道中央会会長で南北のバランスを取った。全中幹部の専務、常務には九州出身が3人、うち常務2人は鹿児島出身だ。全国連では農林中金理事長が大分出身、全酪連会長が熊本出身だ
セ界〈虎優勝〉年には衆院解散
閑話休題。今後の農政の行方と地続きの政治動向に移ろう。
プロ野球のセ・リーグは18年ぶりに阪神タイガースが優勝した。攻守走バランスが良くとにかく強い。優勝は当然だろう。虎は借りてきた猫のようにもなれば、時には本性を表し牙をむくときもある。今年の虎は牙をむき無敵の強さを誇った。
久々の阪神優勝は有形無形の効果を生む。端的なのは経済効果だ。もともと関西人は派手好き、祭り好き。さらに虎ファンはアルコール好きで、試合後に仲間と飲みに行く機会が多いうえに、甲子園球場のある阪神沿線を中心にファンのための飲食店が他球団と比較しても群を抜いて多い。虎ファンは全国に1000万人いるとも言われ、巨人に匹敵する。
今回の阪神優勝の経済効果は872億円との試算がある。これは今春の米国を破ったWBC世界一となった侍ジャパンの経済効果654億円を200億円以上も上回る。さらに、日本シリーズでオリックスとの関西対決となった場合、経済効果はさらに膨らみ1000億円を超すとも見込まれる。いずれにしても明るい話題である。
さて、虎優勝と政治との関連だ。野球に関連して「中日ドラゴンズ優勝の年は政変が起きる」というジンクスは有名だ。平成以降は「阪神の優勝年には衆院解散・総選挙がある」とのジンクスが生まれた。
年内総選挙を模索
40年以上政治の世界を見ていて、時の最高権力者・首相がいつ衆院解散・総選挙をやるかはその後の日本政治に大きな影響を与えてきた。憲政史上最長となった安倍政権は、なんといっても今は亡き安倍晋三首相の絶妙のタイミングで間髪を入れない政治判断が冴えた。国政選挙はことごとく勝利し、それが政権延命に直結した。逆の、安倍氏の後を継いだ菅義偉氏は自ら解散が出来ず、自民党総裁選に不出馬という形で失速し1年あまりの短命政権に終わった。
そして、10月で政権2年となった今の岸田文雄首相である。選挙戦略は安倍氏を見習い、菅氏の轍を踏まないとの思いが強い。つまりは、岸田氏は安倍氏同様に政治的タイミングを見て間髪を入れず総選挙に打って出るつもりなのだ。
解散は早ければ11月。政局となり得るのは10月22日投開票の衆参両院議員欠員を補う衆院長崎4区、参院徳島・高知の二つの行方だ。改造人事後初の国選選挙となる。11月上旬補正予算成立、その直後の衆院解散説がいまだに消えない。いずれにしても岸田首相は、解散・総選挙の時期を、虎優勝の年とも絡め〈虎視眈々〉と探っているのは間違いない。
ただ、プロ野球と関連付ければ、気になる動きもある。首相は地元球団である広島カープの大ファン。公務後、夜遅くなってもカープ戦はビデオで必ず確認するほどだ。阪神を追う2位だったカープは9月上旬の大事な直接対決で3タテをくらい、阪神の18年ぶりリーグ優勝を決定づけてしまう。さて阪神と言えば、大阪で無敵の野党第2党・日本維新の会を連想する。大阪は衆院定数19人もあるのに自民はゼロ、残りはわずか数議席の公明党を除き維新が席巻する。衆院大阪17区選出の維新代表・馬場伸幸氏は当然、阪神ファンだ。総選挙となれば保守票を奪い合う形で自民vs維新の激突となるとみられる。つまりは、維新が増えれば自民が減るトレードオフの構図だ。政治とスポーツ。ことほどさように絡み合う。今後の農政を占ううえでも、政治とスポーツからは目が離せない日々が続く。

(次回「透視眼」は12月号)