ふくおか県酪農業協同組合

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透視眼

TPP2月署名で重大岐路に 今後は米国議会動向がカギ
 米国のオバマ大統領は一月中旬、今後の施政方針を示す一般教書演説で環太平洋連携協定(TPP)に言及し、議会に対し早期承認を求めた。二月にはニュージーランドで参加十二カ国閣僚による署名を行い、TPPは重大局面に入った。だが内実は上、下院とも野党・共和党が多数を占める完全な「ねじれ議会」で批准は難航を極めることは必至だ。二月に入り次期大統領を選ぶ選挙戦も一挙に本格化した。米国の政治状況を注意深く見極めることが大事だ。「透視眼」で今後のTPP情勢を見れば、大統領選を絡め米国議会の協定批准への紆余曲折ぶりが見えてくる。  それにしても日米でTPPの国内論議は対照的だ。米国内では業界ごとに賛否両論があり、それを反映して議会内でもTPP論議に慎重な意見も依然多い。これに対し安倍政権は「前のめり」過ぎないか。気候変動に対応した「京都議定書」を米国が拒否したように、米国議会で批准が難航し万が一〝再協議〟でもなったらどうするのか。
 政府・与党は昨年十月五日の電撃的なTPP大筋合意を受け、協定書署名、国会承認を大前提に矢継ぎ早に対応を進めてきた。参加十二カ国で最大の経済規模を誇る米国が批准に足踏みすれば発効できない。慎むべきは「前のめり」過ぎて拙速な対応を進め、国内農業者に不安と不信を募らせることである。
 最も基本的なことは日本が食料自給率三九%と先進国でも低い〝異常国家〟だという実態だ。安全保障上も大きな問題である。TPPで域内から食料調達が容易になるなどの意見は幻想、空論に過ぎない。有事の際は自国民の食料確保を最優先するのは独立国家として当然の責務だからだ。
 十三億の巨大な胃袋を持つ中国をはじめ世界市場での食料争奪戦は激しさを増しており、自国での食料増産と自給率、自給力強化は国是のはずだ。首相は国会審議で「国会決議は守られた」と言い放つばかりでなく野党の指摘にも耳を傾け、丁寧で建設的な議論を進めるべきだ。
 任期中最後となったオバマ大統領の今回の議会演説をどう見るべきか。米国は世界を左右する〝政治の季節〟に突入する中での政局を踏まえた中身だ。十一月八日の大統領選、議会選挙まで一〇カ月を切り、二月一日のアイオワ州を皮切りに民主、共和両党の大統領候補を絞り込む選挙戦が始まる。そして三月一日には大統領予備選が集中する「スーパーチューズデー」と呼ばれる特別な火曜日を迎える。こうした中で大統領は、具体的な数字を挙げ二期八年の自身のレガシー(遺産)を強調すると共に、トランプ氏など共和党候補批判を漂わせた。
 TPPは二月上旬、ニュージーランドで参加国閣僚が集まり署名した。問題は各国の議会批准だ。大統領は演説の中でTPPに関連しアジア太平洋地域の経済ルールは「中国ではなく、われわれがつくる」と言い切った。そして米国主導のTPP決着も踏まえ「米国経済は世界で最も強く耐久力がある」と述べた。海洋進出を強める中国への警戒心を示すとともに事実上の日米自由貿易協定(FTA)とも重なる市場開放が米国に恩恵をもたらすことを確信しているのだ。域内安全保障を支える経済軍事同盟としてのTPPの側面も強めている。
 通商交渉の行方は不透明感を増すと言っていい。メガFTA、広域的な通商交渉が進む。一方で国際的な枠組みである世界貿易機関(WTO)の協議は足踏みが続く。だが、メガFTAがWTOに代わる組織でないことは明らかだ。日本政府は食料自給率と自給力向上との〝国是〟があることを肝に銘じるべきだ。通商交渉ではまず、食料主権との均衡が大前提である。
 TPP大筋合意は、今後の世界中の通商交渉に大きなインパクトを与えることは間違いない。これだけ巨大市場圏を抱え、具体的に署名間近な通商協定はこれまでにない。だが、その事と、今後の通商交渉がTPPをモデルに進めるとは全く別問題だ。原則ゼロ関税のTPP型をこれ以上進めれば、間違いなく日本農業は衰退の一途をたどる。今回の国別TPP枠は、今後は欧州連合(EU)枠などに開放連鎖していく可能性が高い。これでは自給率は今以上に下がり、自民党が掲げる農業・農村所得倍増計画は逆に〝所得半減〟に陥りかねない。
 いま一度、自給率と自給力アップの農政の原点に立ち戻るべきだ。日本は先進国最低の自給率で、世界有数の食料純輸入国だ。他方で地球規模の人口は七〇億人をはるかに超え、アフリカなどでは死線をさまよう飢餓人口は減らない。世界的に求められているのは、人口増に伴う食料の着実な増産である。
 TPP論議は、強い農業とか輸出で活路とか、目先の議論に終始していないか。まずは農業現場の足元を見るべきだ。現場があって、現実を直視し、あるべき姿が見える。貿易自由化の下で、競争力強化策と共に農村を維持する政策を並行する以外に道はない。
 一六〇以上の国・地域で構成されるWTOは、確かに〝国連化〟と呼ばれる先進国と途上国の対立で物事は前に進まない。こうした状況に対しメガFTAを最優先すべきとの声があるが大きな疑問だ。FTAは地域協定の域を出ず、やはり世界規模での利害調整機関は欠かせない。新たなWTOの機能発揮を目指すべきだ。
 通商交渉の歴史で一番の争点は農業分野の自由化だ。食料主権は一国の生殺与奪権と結び付く。逆に食料支配すれば管理下における。米国の戦後の食料政策は米国支配と一体で進められてきた。難航を極めたウルグアイ・ラウンド(UR)農業交渉合意で日本は農業総自由化時代を迎えた。さらに市場開放度が大きい現在のTPP大筋合意に至る。地域農業にとって最後のとりでとされたのが重要五品目など「聖域」である。大筋合意は「聖域」を深く浸食したと言っていい。今春年以降に待つのはEUや一六カ国が参加する東アジア地域包括経済連携協定(RCEP)などメガ協定だ。食料主権との均衡が、今後の通商交渉に当たっての焦点である。
(次回「透視眼」は4月号)