ふくおか県酪農業協同組合

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「分裂」抱えバイデン新大統領始動 通商先送りでも要注意な民主党政権
 4年ぶりの政権交代で1月20日、バイデン米民主党政権が始動した。「分裂」から「協調」へ。だが、国内外の情勢は荒波が際立つ。まずは新型コロナウイルス対策だ。米中激突の行方からも目を離せない。通商問題はひとまず〈小休止〉だろう。だが、過去は民衆党政権時に対日要求が厳しくなった。酪農、乳製品の市場拡大の動きがいつ再燃するか分からない。
新政権はどう動く
 バイデン米民主党政権が1月20日始動した。真っ先に取り組んだのは新型コロナウイルス対策だ。米中激突の行方はどうなるか。通商問題は〈小休止〉だろうが、農産物市場拡大の動きがいつ再燃するか分からない。菅政権は、米新政権を相手難しい舵取りを迫られる。
 一言でいってバイデン政権の前途は〈波高し〉。国内にはトランプ後遺症が至る所に残る。トランプは敗北したと言っても現職大統領として7400万票と史上最高の得票を得た。高齢のバイデンは4年後の次期大統領選に出る体力はないだろう。関心が既に〈ポスト・バイデン〉に向かうのは必然だ。

 上院、下院とも与党が多数を占めているといっても、特に上院は同数。いつ「ねじれ」で法案が動かなくなるか予断を許さない。しかも与党内の不協和音も高まりかねない。左派、リベラル勢力の不満が政権批判となっていつ表面化しても不思議ではない。
関心は来秋の議会中間選挙
 バイデン政権は表面上、民主党のカラーであるブルーウェーブ、青い波は起きたかに見える。大統領、さらには議会上下院すべてで民主党が多数を占めたからだ。だが内実は「トランプ台風」の威力はすさまじく、当初、下院は民主圧勝と見られていたが民主222に対し共和211と差は約10議席に過ぎない。上院にいたっては僅差だったことから年明けに2議席の決選投票で民主50対共和50の同数で、民主党議長の1でかろうじて多数を確保したに過ぎない。つまりは〈薄氷の勝利〉と言うのが実態だ。

 そこで、関心は既に来年2022年11月の米議会中間選挙に移っている。ここで与党・民主党が勝てば名実共に政権の政策、予算がスムーズに通り、気候変動に対応したグリーンニューディール政策を柱としたバイデン色がくっきりとする。だが、逆に同数の上院でが与野党逆転にでもなれば、議会はいわゆる「ねじれ」となり、政権の運営は行き詰まりかねない。そこで、バイデン大統領は、1年10カ月後の中間選挙までは、多くの国民受けする中立的な政策で終始し思い切ったことができない、との見方が強い。
乳製品市場拡大要求に警戒
 日米貿易協議の再開は、米通商代表部(USTR)代表の議会承認手続きなどの遅れで、初夏以降だろう。ひとまず「小休止」となる見込みだ。ただ、協議時期と議論の中身は全く別問題だ。それはバイデン民主党の選挙地盤との絡みで読み解く必要がある。

 トランプ政権はコメ、乳製品にそれほど固執しなかったのは、あまり共和党の選挙地盤ではなかったからだ。逆に言えば、政権交代で与党となった民主党のお膝元にはカリフォルニアなどのコメ地帯、あるいは酪農地帯が含まれる。つまり与党からコメ、乳製品の市場開放圧力が高まりかねない。
通商代表はアジア系女性
 バイデン政権で閣僚がどうなるかは重要だ。特に外相にあたる国務長官と、通商交渉を担当するUSTR(米通商代表部)代表がどうなるのか。トランプ政権のライトハイザーUSTR代表は、かつての日米経済摩擦激化の時の鉄鋼輸入制限交渉などでタフテネゴシエーター(手ごわい交渉相手)としてならした。日米交渉でも強硬姿勢を懸念する声があったが、結果は何とかTPP11の合意内容の範囲内に収まった。特に日本政府が憂慮したコメについては一定の配慮がなされた。ライトハイザーは最後まで乳製品の一層の市場開放にこだわったが、最終的にはトランプの判断で見送った。トランプ政権での通商交渉は、対中攻撃に全力を挙げ、他の交渉にまでそれほど手が回らなかったという側面も強い。

 新たにUSTR代表に指名されたのはキャサリン・タイ。上院で承認されれば初のアジア系女性の通商代表となる。両親は中国本土で生まれ、台湾で育つ。通商弁護士で国際法務のプロだ。直前まで下院歳入委員会の首席貿易顧問を務め、北米自由貿易協定(NAFTA)改定に手腕を発揮した。宣誓では「米国人労働者を守り、米国の利益のために働くことを誇りに思う」と強調した。民主党らしい保護主義を貫く姿勢を感じる。
「キャサリン台風」は豪腕か
 彼女の名前で、失礼ながら戦後間もない1947年の「キャサリン台風」(カスリン台風)が浮かんだ。9月に日本に接近した超大型台風で多量の降雨をもたらした雨台風だった。関東、東北の甚大な被害をもたらし、1000人以上が亡くなった。むろん、河川決壊に伴う洪水で出来秋の水田地帯をのみ込んだ。同じ名前を持つUSTR代表は、日本にどんな交渉姿勢を取るのか。女性版タフ・ネゴシエーターであることは間違いない。

・バイデンは甘くない
 バイデンは人柄の良さからアンクル・ジョーと呼ばれる。「ジョーおじさん」は間もなく78歳と最高齢の米大統領誕生だ。激務の大統領職で体力は持つのか。コロナ感染リスク大丈夫なのか。そして、あの温厚な笑顔の裏には何が隠されているのか見極める必要がある。上院議員を長年務め、オバマの下で8年間も副大統領をこなした。したたかな政治のプロだ。同盟関係を重視ながらも、やはり米国の利害を第一義的に思い行動するに違いない。「バイデンは甘くない」と見ていい。
TPP復帰は明言せず
 4年前を思い出してほしい。トランプ大統領は就任式のその日に、オバマ民主党政権が旗を振ってきた環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明した。いわば〈ちゃぶ台返し〉である。その結果、米国抜きのTPP11(イレブン)となり、協定は一時、漂流しかけた。その代わりに、トランプは2国間協議の自由貿易協定(FTA)に舵を切る。2国間なら国力で圧倒する米国が有利との判断からだ。
 日米貿易協定はTPPの〈枠内〉に収まり、コメは除外され、乳製品も追加的な自由化から免れた。何とかぎりぎりの交渉結果と言えるだろう。

 再び民主党政権となったのだからTPP復帰か。そう指摘する見方もあるが、既に日米協定が存在する以上簡単ではない。さらに労働組合が支持母体である民主党内の事情もある。TPP協定は、競争力のある日本からの輸出攻勢を恐れ自動車など米国内の製造業で警戒心が根強い。そこで、すぐにはバイデン大統領がTPP復帰を言い出せる環境に
策謀・中国TPP参加意志
 年明け以降も米中対立が収まりそうにない。米国の政権移行のもたつきを尻目に、中国は次々と手を打ってくる。東アジア中心のメガFTAである地域的包括経済連携(RCEP)に続く、環太平洋連携協定(TPP)参加の検討を習近平主席自ら公言した。米国の揺さぶりとともに、中国の市場拡大に向けた本気度を示した。そこには習政権のドス黒い「深謀遠慮」が潜む。

 中国の「深謀遠慮」を探る前に、新たな関連ニュースが飛び込んできた。韓国の文在寅大統領が2020年12月8日、「TPP参加も検討していく」と初めて明らかにした。中国の習主席の前向き発言に触発されたものと受け止められている。韓国としては、地域的な広域経済連携(RCEP)合意に続くもので、激化する米中対立の貿易リスク軽減を念頭に置いた。今後の具体的な動きに注目が集まる。
台湾封じ込めへ牽制球
 「鬼の居ぬ間に」と言うことかもしれない。米国の存在感が希薄になる中で、中国は相次ぎ「次の手」を打っている。もしかすると、今後の中国問題でキーワードになるのは香港と台湾が大きく絡んでくる。

 香港は毎週のようにニュースで報じられるが、民主派弾圧は収まるところを知らない。海外でも著名な活動家を拘束することは、中国の方針の下でしか香港の自由はあり得ないことを国内外に示すことにつながる。あまりの香港の自由抑圧は国際的な反発を招く。そこは織り込み済みだろう。「香港は中国の国内問題」と繰りかえすが、活動家の亡命が相次ぐ様相は中国にとって好都合だ。米国が新政権となって中国の香港問題に関わるにはまだ時間がかかる。その間に、一定の勝負を付けてしまう作戦だろう。習近平政権にとって共産党一党支配を揺るがす自由化、民主化要求などあってはならない問題だからだ。

 さて、突然の習主席自らのTPP参加の検討表明の〈真意〉について。習主席は同年11月20日、21の国・地域によるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にオンラインで出席しTPP11の参加を「積極的に考える」と述べた。習氏がTPP参加検討を明らかにするのは初めて。その5日前、15日にはメガFTAのRCEPの大筋合意をまとめ上げたばかり。改めてトップの市場開放姿勢に驚きと疑心暗鬼の見方が広がっている。TPPは自由化度が極めて高く、国有企業などの制限など中国の経済政策の基本に関わる問題をとてもクリアできないとの見方が一般的だからだ。国立大学の受験を目指し、全国共通試験で基準の点数を全く達していないようなものだ。つまり、今のままでは中国はとてもTPPに入る水準に達していない。
 ではなぜ今言い出したのか。ポイントはAPECの場というのに注目したい。この国際会議は台湾が出席できる数少ない場だ。ハイテク産業が柱の台湾はかねてからTPP参加を望んでいる。台湾代表がいる目の前でTPPの3文字をあえて唱え台湾の加盟意欲を萎えさせ、台湾加盟に理解を示す関係国を牽制したのではないか。例えば国連の世界保健機関(WHO)。新型コロナウイルス対応で台湾は効果的な防疫を徹底し世界的な注目を集めた。だが中国はWHO総会への台湾の出席を徹底的に妨害した。もし、中国がTPP参加となれば、台湾の加盟の芽は摘まれる。国際舞台からの台湾の徹底的な締め出しと孤立化は、習政権の基本戦略だ。
米国の〈間隙〉突く戦狼外交
 米国の政権はトランプからバイデンへ。この流れを中国はどう見ているのか。トランプと習は、当初の友好ムードから一転し後半は激しい対立を繰り広げた。トランプは自らを「タリフマン」、すなわち関税男を称し報復関税を乱発した。国際貿易の流れは、関税削減で自由貿易を進めることこそが世界経済全体にとってプラスに働くとしていた。その潮流に真っ向から反対する形で、相手国の市場を無理矢理こじ開けるための〈脅し〉を押し通した。通商ルールの番人世界貿易機関(WTO)の警告などは無視だ。こんなことが強行できる国は地球上で米国以外にあり得ない。トランプの自国主義は、表面上は米国有利と見えたが、グローバル経済の元では回り回って米国の経済にも打撃を与えてくる。世界が米国の同盟国も含め、対トランプで右往左往している間に中国は次々と手を打つ。つまりは暴走トランプ米国とは別の道を明らかにした。孤立無援ともなった毛沢東時代のスローガン「自力更生」を習がしきりに唱えだした。14億という世界一の巨大人口で内需を喚起しつつ、米国以外のサプライチェーンを形成する方向だ。米国の〈間隙〉を突きながら、新型コロナウイルスの逆境を逆手に、マスク外交なども繰り広げた。

 一方で、世界が中国への依存度を強める中で〈戦狼外交〉で牙をむき始めた。〈せんろう〉と読む〈戦狼〉とは中国版ランボーの人気番組で、五星紅旗をはためかせ敵を次々と撃破していくアクションドラマ。戦狼さながらに攻撃的な外交を進める。典型は対豪州への対応だ。中国のやり方に異を唱えると牛肉、大麦に輸入制限、追加関税などを行った。〈戦狼通商〉と言った方が正確かもしれない。脅しと貿易がセットで相手に譲歩を迫る手法だ。TPP参加云々以前のルール無視の姿勢こそ問われなければならないだろう。
バイデンに警戒心
 中国にとってトランプでもバイデンでもやっかいな相手であることに変わりはないだろう。いずれも中国警戒論を説く。トランプ路線はある意味でわかりやすい。全てが自分の支持者向け、人気取りに行き着く場当たり政策だからだ。報復関税を振りかざして脅しながら、相手国に穀物やその他の選挙地盤の要求するものを買わせようとする。その意味では、トウモロコシ、大豆などをある程度購入すればいったんは収まる。ただ、突然、他の要求も叫び出す予測不能なところは閉口しただろうが。一方でイデオロギー対立とは違う。つまりは対立の根っこは浅い。

 一方で1月20日の就任式を終え民主党バイデン政権に代わればどうなるのか。伝統的な政策展開に回帰するとの見方が強い。表向きは自由と民主主義を掲げ、内実は自国主義の通商政策を仕掛けてくるやり方だ。安全保障面ではより欧州、日豪など同盟国との協調路線を求めてくる。中国にとって最も嫌うのは民主化要求だ。人権外交を掲げるバイデン民主党はそれを主張していくはずだ。その前にまずは、香港を中国の手中に完全に収める。習政権のそんな戦略が透けて見える。
本当の勝者はコロナ
 大半の人が大統領選でバイデン勝利を予想していたはずだ。いくらなんでも無理筋の言動を繰り返すトランプの再選は無理だろうと。ただ、あらためて思い知ったのは国民の声を反映し代表者を選ぶ民主主義の難しさだ。
 自国第一か国際協調か、経済か環境か、白人優先か多様性重視か、自助努力か政府支援か。国論を二分する事態の中では賛否ほぼ拮抗した。結果的にバイデン薄氷の勝利だったのではないか。トランプは胸中で「本当は俺が勝ったはず。コロナに負けたにすぎない」と繰り返しているだろう。歴史に〈イフ〉はないが、もしコロナ発生があと10か月遅れていたら結果は全く異なっていたかもしれない。
 トランプは、自身が感染し完治し再び立ち上がり大統領選を戦い抜いた。選挙最終盤に激戦州を掛け持ちする姿は人間業ではない。こんな大統領は過去一人もいなかった。執念の一言ではかたづけられない権力への固執は、トランプ票を底上げし、数日間もバイデンが勝利宣言するのをためらわせた。米国の地図上に勝敗を分ける青(民主党)と赤(共和党)の分布を見ると、多くの人が愕然とするはずだ。東西の海岸部、シリコンバレーなど新興産業が発展し、名門大学があり高所得、高学歴の人々が住む地区はブルー一色。黒人、ヒスパニックなども民主党支持が多い。半面で米国の中心部ともいえる中西部などは赤い共和党色に染まる。農業地帯やさびれた産業のラストベルト地帯も多い。この二分された米国の修復は容易ではない。バイデンの言う「ノーサイド。国民は団結しよう」の掛け声に耳を貸さない人々も数多い。
混乱の間隙縫う中国
 大統領選の混乱をほくそ笑んでいるのは、もう一つの経済大国・中国の習近平主席だろう。トランプ時代に標的にされ振り回されてきた中国は、既に様々な角度で対米戦略を練っている。どう出るか予測不能なトランプよりも、専門家チームの助言に基づき手を打つバイデンの方が組みやすいと思っている節がある。米国の混乱に乗じ、一層の中国の影響力拡大を図ろうとするに違いない。
 一方で、トランプかバイデンかどちらでも米中対立は続くとみて、昨年10月下旬の中国共産党中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、習は今後の経済政策を〈双循環〉なる言葉で説いた。内外2つの経済循環、つまりはこれまでの輸出一辺倒から14億人の人口を生かした内需拡大で、米中対立の長期戦に備えようという構えだ。
 中国が警戒するのは、バイデンの人権重視の姿勢だ。香港問題に典型なように、中国は一党独裁に反対する勢力は一掃する。
 一方でバイデンは自由選挙と言った民主主義、人権を重視する。トランプは経済しか興味がなかっただけに、大豆の輸入拡大など数字でごまかせた。しかし、バイデンはそうはいかず、中国にとってやっかいなことになる。
 当面は気候変動対応など米中が協力してやるべきことを前面に出し、表面的な協調姿勢で取り繕うだろう。だが米国の対中貿易赤字は膨らんでおり、水面下では激しい経済紛争が続くはずだ。

(次回「透視眼」は4月です)