ふくおか県酪農業協同組合

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透視眼

農政改革「秋の陣」に懸念 指定団体機能維持は酪農「安定装置」
 今年はラニーニャの影響で、残暑が厳しいと見込まれる。今後の牛乳・乳製品の需給ギャップが心配だ。牛乳の消費にはいいが、夏バテで牛の体調管理・乳量減が懸念される。もう一つ、酪農家にとって心配なのは政府・自民党が旗を振る農政改革「秋の陣」だろう。規制改革の目玉に、酪農家の手取り増加、競争力強化につながらない指定生乳生産者団体制度の抜本見直しが俎上に上っている。近未来を「透視眼」で覗けば新自由主義色が濃厚なアベノミクスの今以上の「暴走」が透けて見える。
「小泉台風」と酪農生産基盤
 まずは農政改革「秋の陣」の行方がどうなるのか。秋は九月に中国が議長国のG20首脳会合、各国首脳が一堂に会す国連総会など外交日程が目白押しだ。早ければ九月末には臨時国会を開き、世界経済の下振れリスクに対応した大型補正予算案の審議など経済政策論議を進める。八月の内閣改造を踏まえた新閣僚の試運転も始まる。不十分な答弁、閣僚の「政治とカネ」の問題などが吹き出し、どこでいつ国会が止まるのかわからない。
 TPP国内対応にも関連し生産資材引き下げ具体策をはじめとし農政改革の自民党内議論も八月お盆過ぎからは再開するだろう。仕切る小泉進次郎農林部会長の手腕が改めて問われる。改革派というよりも既存体制の破壊に力を入れる奥原正明氏が官邸主導の霞ヶ関人事で六〇歳にもかかわらず経営局長から農林水産事務次官に抜擢されたことも、農政改革の行方を不透明にしている。奥原氏は四月に施行した改正農協法でTPP国会決議順守の旗を振り続けた全中の監査権限を奪い農協法から追い出した張本人だ。指定団体の抜本見直しにも強硬姿勢で臨むとみられる。農業団体の意向に理解を示し制度維持に主張してきた森山裕農相と一線を画す新農相となった山本有二氏とどう今後の農政運営を調整するか注目したい。
 秋の学校給食再開で都府県の原料乳不足からバター不足再燃が取りざたされれば、またぞろ酪農団体批判が強まりかねない。だが酪農不足払い制度、その中核を成す指定団体制度は需給の過不足を調整する酪農生産の安定、安定供給を通じた乳業メーカーの生産性維持、さらには国民・消費者への国産牛乳・乳製品の安定供給を担保する。こうした三つの「安定」を持つ「三方よし」の仕組みであることを再認識すべきだ。酪農制度見直しの基本的視点は弱体化する生産基盤をどう維持・発展させるかを最大の課題として政策的テコ入れを急ぐべきだ。政府・自民党で今やっていることは酪農家の将来不安が増すばかりである。何としてもアベノミクス、的外れの「三本の矢」を放ち続ける安倍農政の「暴走」を止めなければならない。
どうなるTPPと米大統領選
 今後の政治・経済に大きな影響を及ぼす米大統領選は民主・クリントンVS共和・トランプの異例の対決となった。一一月八日の投開票まで全く予断を許さない選挙情勢だ。同時に上下院の議会選挙や州知事選も同時並行で進む。つまりは米国の政治構図が大きく様変わりする可能性を含む。ここで大きな争点に浮上しているのがTPPの扱いだ。
 通常、自由経済を最重視する米国で通商問題が争点になることはない。それが今回は異例の事態に陥っている。選挙結果は、国会批准をさっさと済ませ米国に再交渉のすきを与えないとする安倍政権の国会戦略にも影響を与えざるを得ない。いくら「もう国会で承認済み」と言い放ったところで、唯一の超大国・米国の主張を覆せる国家は地球上に一つもない。それにTPPは日米安全保障、対中国包囲網も完全にリンクした経済軍事同盟の政策を強めているなら、なおさらだろう。米国から自国利益第一の理不尽な暴論の「暴風雨」に日本は傘なしでずぶ濡れになるほかないとの見方が強い。  米国政府は現行のオバマ政権で何とか年内の早期議会承認を目指す。大統領選後の「レームダック(死に体)議会」で難問を解決してしまおうとの作戦だ。だが共和党は事実上の公約である政策綱領で「レームダック議会で重要な通商協定を承認すべきではない」と明記。前回の綱領にあった「TPP推進」の文言も消えた。
 対する与党・民主党のクリントン陣営も自動車産業など製造業の日本脅威論を背にTPP締結に慎重な姿勢だ。格差是正・自由貿易反対を掲げ党内で最後まで大統領候補指名争いを続けたサンダース上院議員の「左ばね」にも一定の配慮をせざるを得ない。ただ、クリントン女史はオバマ政権で国務長官を務めTPPをはじめ通商交渉には理解がある。国内対策の強化を条件にいつの時点かで柔軟な姿勢を転じるとの指摘が有力だ。またそうでなければ、世界中が保護貿易主義の流れに戻ってしまいかねない。自由貿易阻害で結局は一番ダメージを受けるのは他ならぬ米国そのものだ。
英EU離脱と通商交渉
 英国の欧州連合(EU)離脱決定の国民投票から八月下旬で二カ月を迎える。酪農・乳業にとって英EU離脱はどんな意味合いを持つだろう。まず英国の存在と国家的な地位、地政学的な読解が必要だ。EUメンバーの間は域内の単一市場での対応、農業も共通政策がとられる。EUの鎖から解き放たられればメリットとデメリット相互にある。EUへの市場アクセスには別途関税がかかる。一方で歴史的にも大切なのは太陽が沈まぬ国と隆盛を極めた英連邦の存在だ。特にオセアニアの豪州とニュージーランドの屈指の畜産・酪農大国は密接な関係がある。乳製品の流通のパイプも変わるかもしれない。香港、シンガポール、インドとも長い歴史を刻む。いずれにしても英国は今後、WTO、さらには2国間協議のFTAを進めてくる。
 英EU離脱問題はマクロ的には世界経済の下振れリスクを増し余波は日本にも及ぶ。これまでの円安基調から転じ国産農畜産物輸出にブレーキがかかりかねない。世界は米大統領選をはじめ「政治の季節」に突入している。揺れ動く国際情勢の中で、日本は対EUなどで拙速な対外協議は避けるべきだ。
対欧EPA拙速対応に注意
 日本にとって当面の課題は、アベノミクスの成否にも直結する金融市場の安定と年内大筋合意を目指すEUとの経済連携協定(EPA)の行方だ。TPP合意後の巨大な広域通商交渉である。だが、EU側からは関心品目のチーズ、豚肉などで「TPP合意を上回る市場開放をすべき」などの強硬論が出ている。
 課題は自由化重視の英国の離脱問題が同交渉にどういった影響を及ぼすのか。政府内部にはEUとのEPA交渉を早急に妥結すべきとの声も出ている。米議会のTPP早期承認が難しくなりつつある中で、EUとの協議を率先して進めるべきとの理由からだ。だが、拙速な対外交渉はTPPで大きな不安を抱く国内農業者の営農意欲をさらに減退させかねない。秋の臨時国会はTPP批准の是非が大きな焦点となる。同様のメガ通商協議であるEU交渉の課題でも国会論戦を展開すべきだ。
 秋のG20首脳会議の前段として七月下旬にはG20財務相・中央銀行総裁会議が中国・成都で行われた。最大の焦点は英離脱リスク。一ドル一〇〇円割れなど離脱決定直後に大揺れとなった世界の金融市場は、ひとまず決定前の水準に戻った。だが「小康状態」と言った方が正確で、今後の経済の先行きは不透明なままだ。
 EU離脱問題の衝撃は、世界を覆う雲行きが一挙に「不確実性」の四文字に象徴されるようになったことだ。当事者のEUはもちろんだが、アジア地域でも影響は計り知れない。中国にとってEUは最大の貿易相手国で、欧州の動向は中国経済の浮沈に大きく関わる。
 最大の関心事は英国の対EU離脱交渉がいつから始まり、どういった内容で決着するのか。
 英国のメイ新首相はメルケル独首相、オランド仏大統領と相次いで首脳会談を行い、離脱通知時期で一定の猶予を認めることで合意した。具体的な協議が始まるのは年明け以降だ。過熱する米大統領選を筆頭に、世界は「政治の季節」に入っている。主要国の政治の新体制が動き出すのは来夏前後と見ていい。米新大統領は来年一月二十日に就任式を行うが、新閣僚ら政権新スタッフがそろうのは数カ月かかる。来春はドイツで総選挙、フランスで大統領選をひかえる。こういった中でのEU離脱問題や中国経済減速の世界経済リスク、連続するテロ事件、増え続ける難民。揺れ動く世界の政治・経済情勢の中で、日本は拙速な通商協議を避け、まずは持続可能な国内農業の維持に全力を挙げるべきだ。
(次回「透視眼」は10月号)