ふくおか県酪農業協同組合

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年末生乳廃棄回避へ正念場 Jミルク、中酪独自支援
乳製品過剰が深刻化している。年末年始の学校牛乳停止時期に5000トンの生乳廃棄が出かねない状況だ。こうした中で、Jミルクや中央酪農会議は独自支援を実施。生乳出荷抑制や牛乳消費拡大、乳製品在庫対策などを進めている。前例のない年末年始の生乳過剰問題は正念場を迎えている。
中酪、不測の事態に備え
中酪は11月22日、年末年始の生乳廃棄回避に向けた新たな具体策を決めた。乳製品以外の生乳仕向け促進や出荷抑制に加え、乳業への在庫対策も加えた。同日、国の支援も求めた。
生乳過剰・飼料高・燃油高トリプルパンチ
生乳需給ギャップに加え、同日の中酪理事会で課題となったのは配合飼料高騰に伴う先行き不安だ。11日のJAグループの農政要請全国大会でも、配合飼料の高騰時に発動する異常補填基金の財源枯渇問題が取り上げられた。これを受け、政府は2021年度補正予算で基金積み増しを行う予定だ。

今、酪農の生産現場は「トリプルパンチ」に見舞われている。生乳需給緩和、飼料高、さらには燃油高騰だ。コスト高を増産で賄い得ない構図だ。副産物の乳子牛も、乳製品過剰で一気に供給基地・北海道から都府県の需要がしぼんでいる。

理事会冒頭、中家徹会長(JA全中会長)は、生乳過剰の実態を「年度末在庫は脱脂粉乳で9・2カ月、バターで5・9カ月と過剰な水準にある」と具体的数字を示すとともに、当面の緊急課題である年末年始の生乳廃棄回避へ、関係者挙げた取り組みを呼び掛けた。適正在庫が5カ月前後とされ、特に脱粉はホクレンなどの独自対応を含めても2倍近い空前の在庫水準となっている。
12月21日から3週間緊急対応
喫緊の対応は、あと1カ月を切った12月21日から1月10日までの生乳不需要期ピークへの取り組みだ。この時期は学校給食向け牛乳が停止となり、家庭内の需要拡大が大きなカギを握る。
中酪は年末年始の同時期に、ロングライフ(LL)牛乳や消費が好調なチーズ向け生乳仕向け、先にJミルクが示した緊急対策を活用した酪農家段階の出荷抑制、いわゆる「入り口」対策である早期乾乳や低能力牛更新を促す。LL牛乳にしたのは、フレッシュと違い常温保存が可能で飲用牛乳の需給調整機能を想定したためだ。

ただ、乾乳、乳牛更新は短期間でできないため、年末年始の「入り口」対策実現にはタイムリミットが迫っている。
加工リスクで総額2億5000万円
生乳需給改善へ保存の利く脱粉、バター向け乳製品の割合が増えた場合には、プール乳価との価格差補填を行う「加工リスク平準化緊急対策」を拡充する。

生乳廃棄回避に、都府県で実際は乳製品加工に回すケースが想定されるためだ。加工向けは乳価が低く、加工リスク対策で酪農経営の打撃を少しでも緩和する。中酪は、新型コロナ禍による業務用需要の低迷が長引いているため同対策を年度当初から1億9000万円計上していた。年末年始緊急対応で都府県での加工がさらに増えると見て、中酪の財産を一部取り崩し6000万円積み増した。加工リスク対応は合計で2億5000万円に増強したことになる。
異例の乳メーカー在庫措置
乳業メーカーの生乳不需要期在庫にも支援する。生産者団体が乳業の在庫対応するのは極めて異例だ。

中酪では「既に相当数在庫がある中で、取引拒否による生乳廃棄が出るリスクをなくすため」と説明している。学校給食牛乳停止となる12月から3月末の「加工リスク平準化緊急対策」の対象となった乳製品、特に脱粉の保管経費を1キロ当たり0・04円(4銭)助成する。

いずれにしても、JA全農が行う各地の取引乳過不足のバランスを取る全国需給調整の役割が一段と重要性を増すのは確実だ。
農水省要請に問題の「核心」
中酪は国の所管部局である農水省畜産局・森健局長に飼料高騰・乳製品過剰対策支援で要請した。要請内容は、現在の生乳需給不均衡の〈核心〉を突くので見たい。

まず、酪農現場の取り組みを強調した。国策に伴う増産努力と環境重視へ持続可能な酪農への努力だ。具体的には、2020年春決定した今後10年間を見通した新たな酪農・肉用牛近代化基本方針(新酪肉近)に沿った増産と、農水省が来春本格始動する「みどりの食料供給システム戦略」に向けた環境重視、メタンガス削減などへの対応だ。
こうした国策に沿った新たな取り組みの一方で、コロナ禍で現在の酪農・乳業界挙げての生乳需給ギャップ対応を農水省は改めて直視しなければならない。
北海道増産続く
中酪まとめの10月受託乳量と用途別販売実績は、全国の約6割を占める北海道が前年同期比で103・6%と引き続き増産ペースが続く。4月から10月までの累計でも242万トン、同102・7%となっている。北海道の単月生産量は35万トン前後なため、通年で400万トンの大台突破を確実な情勢だ。

都府県も前年同期を上回る。指定団体別で北海道に次ぐシェアを持つ関東生乳販連の10月乳量は8万5500トン(同102・8%)と高い伸び。都府県全体では約25万3200トン(同101・3%)と増産が続く。ただ、都府県は県によって増減のばらつきが目立ち、関東でも群馬などが前年同期比でマイナス。それを関東で最も生産量が多い栃木が同6・7増と伸び率が高く、全体の底上げをした。
用途別は飲用低迷
北海道、関東など主産地で増産基調が続く中で、用途別の10月販売実績は飲用牛乳とヨーグルトなどの発酵乳仕向けが落ち込んでいる。

生乳需給改善には、飲用牛乳とヨーグルトの需要回復が大きなカギを握るが、北海道の飲用向けは前年同期比93・5%、発酵乳向けは同90・4%。半面で脱脂粉乳、バターの乳製品向けは同111・8%。牛乳の販売低迷に伴い乳製品仕向けが増え脱粉、バター在庫が記録的に積み上がる悪循環に陥っている。
一方で光明もある。新型コロナ感染の以前より収まりつつある中で、レストラン、外食など業務用需要に大きく左右される生クリームが北海道で10万6000トン、同101・0と前年をわずかだが上回っている。全国でも同様の傾向だ。
生乳道外移出11月も低調
例年、夏場の生乳逼迫が大きな問題となり、大産地・北海道からの都府県への大量の移出で急場をしのぐが、今年は一変した。

気候変動で牛乳消費が伸び悩んだ半面、生乳生産は好調で需給ギャップが広がった。これに、コロナ禍での業務需要低迷が加わり、乳製品過剰が一段と深刻化した。
道外移出が不調だと、北海道生乳は道内の工場で保存の利く乳製品に加工せざるを得ない。道外移出回復には、首都圏、関西圏など大消費地の飲用牛乳、ヨーグルトの需要の伸びが欠かせない。だが、いまだに足踏みが続くのが実態だ。

11月になっても道外移出は低迷のまま。都府県の飲用需要を補う道外移出生乳は、10月も前年対比で約15%減の4万2000トン台と大幅に落ち込み、5カ月連続で前年割れの異常事態となっている。都府県で、需給不均衡から乳製品仕向けへ大量の余乳処理が行われているためだ。
Jミルク5000トン廃棄懸念
こうした中で、酪農・乳業界の当面の最大課題は、生乳不需要期のピークとなる年末年始の処理不可能乳の発生だ。Jミルクでは生乳出荷抑制など緊急需給調整に2・5億円、消費拡大の取り組みの含め当面の緊急需給対策に総額3億円を支出する。このままでは5000トンの生乳廃棄の試算も公表し、業界全体の危機感を共有した。
大手乳業トップも危機感
11月上旬の大手企業2021度上期決算会見で、質問が集中したのが新型コロナ感染縮小に伴う業績見通しと共に直近の燃油高への影響だ。だが、乳業メーカーの会見では、膨らむ乳製品在庫問題と経営対応も相次いで問われた。
最大手・明治HDの川村和夫社長は「年末年始の処理不可能乳は何としても避けなければならない。酪農・乳業界挙げて対応する」と決意を述べた。北海道にいくつものバター、脱脂粉乳の大型乳製品工場を有する雪印メグミルクはさらに事態を深刻に受け止めている。3大メーカーのうち明治、森永乳業は乳製品の社内処理で製品化する比率が高い。一方で雪メグは実需者への原料供給の側面が強い。積み上がる乳製品在庫は、経営問題にも直結しかねない。
西尾啓治雪メグ社長は、年末年始の生乳廃棄の懸念が高まっていると危機感を示した上で、「乳製品工場のフル稼働、業界挙げてあらゆる手を尽くして需要拡大に努める」とした。
業界挙げた対応急務
年末年始は例年、生乳不需要期で学校給食牛乳も停止となることから需給緩和がピークとなる。だが、今年はこれまで以上に乳製品工場に持ち込まれた原料乳が処理しきれず生乳廃棄の懸念が高まっている。乳製品、特に脱粉が年度末で適正在庫の2倍以上の10カ月分に積み上がりかねない。試算では年末年始に5000トン程度の生乳廃棄が生じかねない。
業界団体で構成するJミルクは10月26日、全国オンライン会議で現在の生乳過剰の危機的状況を示し、生乳廃棄回避へ酪農家の一時的な生乳出荷抑制、乳業メーカーの万全な乳製品処理対応、合わせて業界挙げた牛乳消費拡大などを呼び掛けた。
指定団体以外はどうするのか
出荷抑制は大方の理解を得たが、問題は具体的にどう対応するかだ。生乳需給改善には、「出口」対策と「入り口」対策の二つがある。
コロナ禍の業務用需要低迷で、国は牛乳消費拡大、輸入品の国産代替、食用から飼料用脱粉への切り替えなどで、生乳需要を喚起しそれなりの需給改善効果を挙げてきた。これは、積み上がった乳製品在庫の山を崩す「出口」対策だ。今回の出荷抑制は、酪農家の生産者段階の出荷に一時的なブレーキを効かせる「入り口」対策で、究極の需給調整手段と言っていい。あまり抑制が効かすと、その後の需要回復時に生産が戻らない懸念も強い。

ここで注目すべきは、Jミルクの出荷抑制呼び掛け時に相次ぎ生産現場から出た疑問だ。典型的なのは「指定生乳生産者団体以外の対応はどうするのか」「酪農・乳業の自主的な取り組みは理解できるが、国はどんな支援をするのか」の二つの問いだろう。

先の疑問は、官邸主導農政による規制改革推進の中で制定された改正畜産経営安定法と絡む。生乳改革論議で、生乳一元集荷、原則全量委託の現行指定団体制度を抜本見直し、生乳流通自由化を決めた。指定団体以外も一定の条件を満たせば加工原料乳補給金対象とした。今回の出荷抑制で生乳全体の9割を超す指定団体傘下の酪農家は需給調整で対応するにしても、それ以外の生乳集荷業者、酪農家が対応しなければ、不公平感が残り、需給調整効果は薄らぐ。まさに改正畜安法で再三指摘されてきた「いいとこ取り」の象徴だ。
全中緊急大会でも前面に
今年は、11月中旬の大型経済対策実施に伴い補正予算も含め、農業団体の予算運動も〈異例〉の前倒しとなった。こうした状況でJA全中は11月11日、与党農政責任者を招きJAグループ農政推進緊急全国大会を開いた。むろん、自公政権勝利となった総選挙直後の政治的なタイミングで、農業団体の意思反映を行う狙いもある。
主眼は、過剰在庫で米価低迷が顕著なコメ関連対策、人・農地関連施策見直しに伴う政策提案だが、主要な柱の一つに畜酪対策も据えた。

畜酪対策でも乳製品過剰に関連し「生産者団体・乳業が一体となった取り組みへの支援」を訴えた。要請では、北海道中央会会長で全中酪農対策委員長を務める小野寺俊幸会長が、深刻化な生乳需給緩和を念頭に「この難局を乗り越えるため業界一丸の取り組みに、国の支援が何としても必要だ」と訴えた。配合飼料高騰での基金枯渇の懸念も示した。


(次回「透視眼」は年明け1月号です)