ふくおか県酪農業協同組合

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G20大阪会合前に国際緊張     
「牛乳月間」酪農の大切さを前面に
 6月28日からの主要20カ国・地域で構成するG20首脳会合を前に、暴風雨を伴いながらトランプ台風が急接近中で、国際的な緊張が高まっている。米中貿易戦争の余波は日米協議にも影響を及ぼしかねない。一方で、6月1日は「牛乳の日」、6月は「牛乳月間」である。この機会に改めて酪農の大切さを訴えたい。
SNS発信で牧場身近に
 今年の「牛乳月間」は、酪農・乳業界に追い風が吹いている。NHK連続テレビ小説「なつぞら」で日曜日を除く毎日、北海道の酪農一家が登場するからだ。雪印メグミルクの西尾啓治社長は5月の2018年度決算会見で、テレビ番組の効果を「毎日録画を取って観ている。番組が大きな反響を呼び、酪農や農業がより身近に、しかも共感を持って国民に受けた入れられているのは大変好ましい」と強調した。明治や森永乳業トップも同様の見方を示した。「牛乳月間」はこうした世論の動きも生かしたい。
 Jミルクは6月の牛乳月間、1日の世界牛乳の日に合わせて、インターネット交流サイト(SNS)の活用して牛乳消費拡大のキャンペーンを展開中だ。「なつぞら」人気をてこに、消費者が身近な牧場などを訪れ、インスタ映えする写真投稿や記事投稿などを、酪農への理解がより深まり、国産牛乳・乳製品の需要拡大に結び付ける方針だ。
貿易戦争が日本に飛び火も
 28日からの大阪でのG20首脳会合を前に、米中貿易戦争の火の粉が日本にも降りかかりそうに気配だ。
 ハイテク分野を筆頭に米中覇権争いの深刻さは、実は先の千葉・幕張メッセでの国際食品見本市、フーデックスの現場でも見られた。通常なら多くの人が訪れる中国ブースが今年は人影がまばらだった。一方で、米国を除く11カ国によるTPP協定発効、日EUの協定も2月に発効し、巨大な胃袋を持つ日本市場を目掛け海外農畜産物、加工品の売り込みが激しさを増す。これに対し、米国も牛肉・豚肉やチーズなど乳製品で日本でのシェア維持に懸命のPR作戦を展開中だ。
 こうした中でのG20首脳会合の開催だ。米中交渉がトランプ・習近平トップ会談でも打開しない場合は、経済規模で世界1位と2位の大国同士の全面貿易戦争に入りかねない。国際的な緊張は日増しに高まり、G20を前に、日本での各国の首脳会合も活発化する見通しだ。
 日本にとって、もっとも恐れるシナリオは、米中交渉決裂の余波が、日本の農業市場開放圧力となって襲い掛かることだ。トランプ大統領は、来年11月の大統領選を前に有権者に通商交渉の戦利品を示したがっている。そこで、日本から一層の農畜産物の市場開放を勝ち取ろうと動きかねない。昨秋、日米首脳会談で「過去の貿易交渉の範囲を超えない」と市場開放に一定の歯止めがかかっているとはいえ、掟破りなどトランプ大統領にとっては日常茶飯事の事と言っていい。
 7月下旬には日本で国政選挙を控える。そこで農村部での反発をおさえるために水面下で秘密裏に日米交渉が進む事を警戒しなければならない。
令和農政は持続可能性こそ
 新元号「令和」の下での農政はどうあるべきか。平成30年間の農政史は自由化と規制緩和で揺れ続けた。令和のキーワードは「持続可能性」だろう。それには、食料自給率と自給力を底上げする施策が欠かせない。まずは、大前提となる生産基盤の維持、強化に向け、地域視点で支援に総力を挙げるべきだ。
 新元号の頭文字から「Rの時代」と言われる。今こそ自由化と規制緩和を多くな特徴とした平成農政から「リセット」し、軌道修正しなければならない。
 Rで始まる「農政3R」を考えたい。まず、先の「リセット」。いま一度、持続可能な食と地域づくりを実現する農政を見つめ直したい。地域実態に応じ、担い手とともに家族農業も含め政策支援の在り方を組み替える。一般に産業政策と地域政策と切り分けるが、この二つは密接不可分の関係にある現実を直視すべきだ。
 家族農業を地域政策の枠に押し込めず、むしろ環境保全、水源涵養を含め中山間地域などを維持する「緑の守り手」、条件不利地の生産基盤を保つ多様な担い手として積極的に農政に位置付けるべきだ。
 次に防災用語としても定着してきた「レジリエンス」。回復力の意味合いで幾多の災害などにも立ち直る底力を表す。持続可能な社会づくりには欠かせない。持続可能とは柔軟性とも通じ、地域住民や農業者のより強固な結びつきの中で育つ。
 三つめのRは「リサイクル」。循環経済を通じ、地域や農業者が新たな付加価値を享受し、身の丈の経済成長をしていく姿を描くことが重要だ。農業は古くから耕畜連携を基礎にした循環農業を柱に、持続可能な地域づくりを実践してきた。例えば、全国有数の畜産地帯・熊本県の菊池地域。家畜ふん尿を有機質たい肥に変え、米麦、野菜などに還元することで、ブランド戦略も確立したマーケットインの先進事例だ。
ダブルR「酪農ルネサンス」
 国連の持続可能な開発目標「SDGs」を国内外で進める中で、改めてリサイクルの意味と実践が問われている。リサイクルは単なる循環にとどまらず、連携や助け合いにも行く着く。生産者と消費者は食物残さの再利用で結び付く。JA全中の中家徹会長は今後の農政方向に食料安全保障政策の確立を掲げる。そうした中で「食料安保の国民理解へ具体的イメージが必要だ」と訴える。食物残さをリサイクルの視点に立てば、身近な食料安保ともつながらないか。共同販売と共同購入が重なれば、作る側の所得は安定し食べる側は「顔の見える農産物」を手にすることで安全・安心も得る。それこそが、地域での食料安保の確かな一歩でもある。
 「令和農政」の方向性をどうするのか。与野党農政責任者は、市場開放圧力には毅然(きぜん)として対応しつつ、海外市場の需要開拓の一方で国内生産基盤の再建、強化ではおおむね一致する。まずは「農政リセット」である。平成30年間の農政を総括、反省し、新たな一歩を踏み出す土台と足元を固め直さなければなるまい。それには、自給率と自給力の根源となる生産基盤の確立は急務の課題だ。また地域農業振興、社会生活に欠かせない組織である協同組合を政策上もきちっと位置付け、活動を支援していく仕組みが重要だ。平成農政時の協同組合軽視を「リセット」する必要がある。
 そして「Rの時代」の中で、酪農の頭文字とも重なる。新元号「令和」こそ日本酪農が蘇り復興、再興する酪農ルネサンスのダブルRにしたい。
安倍首相、伊藤博文を抜く
 安倍晋三首相は6月6日、首相在職日数が初代首相、伊藤博文氏を抜き、歴代3位の長期政権となる。だが課題も目立つ。特に農政では、規制改革と自由化を「両輪」とした農政改革が、生産現場の実態とはかけ離れた不協和音を生む。これまでの競争偏重から、地域重視の協調を中心に据えた政策に転換すべきだ。
 首相がこれほどの長期政権を維持できたのは、内閣機能を強化し、官僚の人事権を握り官邸主導の政権運営を進めてきたからに他ならない。
 2月下旬、首相在任期間が戦後日本の講和・独立を成し遂げた吉田氏の2616日を抜いた。残るは郷里が同じ長州・山口出身の3人の先達のみだ。政治的な難局をしのげばの話だが、6月6日に初代首相の伊藤博文、8月23日に沖縄返還を果たした大叔父でもある佐藤栄作を、そして11月20日には日露戦争時の首相だった桂太郎の2886日を超え憲政史上最長となる。
 だが、評価の対象となるのは、何を成し得たかだ。 立ちはだかるのは、「亥年(いどし)政局」とも言える、政治の高い壁である。いくつもの地雷が埋まっていると見ていい。5、6月の2度、トランプ米大統領が来日し、新たな日米貿易協議への言及も予想される。10月には消費税増税もひかえる。12年に一度の亥年は、統一地方選と参院選が重なる。与党にとっては厳しい選挙が重なり、数々の政局を招いてきた。それを一番身にしみているのは首相自身だろう。12年前、第1次安倍政権時の2007年亥年選挙で自民党は37議席の惨敗を期し、退陣につながる苦い経験を持つ。
近づく国政選挙と一人区
 政権の行方を大きく左右するのは7月21日が濃厚とされる参院選の結果だ。選挙結果を決定付けるのは32選挙区ある1人区の当落。前回の16年参院選で自民党は21勝11敗で乗り切った。今回は1人区のみで野党共闘が成立する可能性も高く、自民党苦戦は必至とみられる。衆院選と異なり政権選択選挙ではないが、政権信任かどうかの意味合いを持つ。自民党大敗とでもなれば、首相の求心力が落ち「ポスト安倍」が走り出しかねない。
(次回「透視眼」は8月号)


写真=国際食品見本市フーデックスで米国は牛肉などの日本売り込みに力を入れた(千葉・幕張メッセで)