ふくおか県酪農業協同組合

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早くも政局「大波乱」の予感 大波の中で進め「酪農丸」
 今年の政治は波乱含みの様相だ。1月20日からの通常国会は、冒頭から大荒れとなった。不祥事が相次ぐ安倍長期政権。2月3日にはアイオワ州を皮切りに米大統領選もスタート。「トランプ台風」で大波が予想されるが、「日本酪農丸」は増産と消費者理解を双発エンジンに、直進していくしかない。
解散・総選挙はいつか
 「疑惑国会」が幕を開けた。国会冒頭の所信表明で安倍晋三首相は東京五輪への期待を繰り返すとともに、農業と地方にも配慮する姿勢を示した。特に、生産基盤の強化に言及した。この間の国政選挙では東北などで自民党は苦戦を強いられている。総選挙が近い証しかもしれない。

 長期政権のおごりが表面化し、「安倍一強」の土台が揺らぐ。自由化、規制緩和ばかりを声高に叫んだつけが回ってきた。いま一度、地域重視へ政策、特に農政を軌道修正すべきだ。現在の政治状況は、安倍長期政権後、初めて「大乱」の予想に満ちている。こうした中で、難局突破へ年内には解散、総選挙との見方が強まってきた。今年は参議院選もなく、首相の政治決断は「フリーハンド」である。逆にかえって恣意的に選挙が打てる状態とも言えよう。

 ただ、大きな制約は7月24日から9月6日までの東京五輪・パラリンピック。世界的イベントを政府としてつつながく進める必要がある。その時期は避けねばならない。そこで、早ければ大型財政を組んだ補正予算成立後。あるいは「第2国政選挙」と称される東京都知事選の6月18日告示、7月5日投開票を踏まえた衆・都ダブル選。もっとも可能性が高いのは、現在の衆院議員の任期2021年10月21日まで後1年と迫る五輪後だ。衆院議員の平均在任期間は2年半。そうなれば今年4月以降は、どんな政局になっても不思議でないと見るべきだろう。ただ、首相は内閣支持率、野党の結集具合などを踏まえ慎重な決断を下すだろう。

 いずれにしても、さまざまな不祥事が重なり国民の政治不信は募る一方だ。典型は昨年の「桜を見る会」問題に政府対応は、誰が見てもずさんの一言である。各紙世論調査結果でも、7割前後が政府の対応を「納得できない」としていることは当然だろう。

 政治関係者は、54年前の1966年夏から秋にかけての「黒い霧事件」と絡め「不祥事連発の今の政治状況に酷似している」と指摘する。自民党幹事長更迭などで難局打開を図った佐藤栄作首相(当時)は結局、同年暮れに衆院解散に追い込まれた。結果、野党第1党の社会党が伸びやみ、かろうじて政権は維持された。

 歴史の巡り合わせを思う。安倍氏の大叔父に当たる佐藤氏は首相在任連続日数が2798日で歴代1位。安倍首相は7カ月後の8月23日、この記録に並ぶ。子年は波乱の年でもある。今年は〈かのえね〉と読む庚子に当たるが、前回の60年前には、安倍の祖父・岸信介氏が安保改定の騒乱の中で退陣した。420年前の1600年、天下分け目の関ヶ原の戦いも庚子だったことから、政治関係者は「大乱」の政局を予想する向きもある。

 歴代最長政権が射程に入った安倍首相の力の源泉は、国政選挙区4連勝の実績だ。選挙の勝利は政権強化に直結する。まとまりに欠ける野党の非力さが、自公政権勝利を支える側面も強い。だが半面、権力のおごりがおりのようにたまり不祥事につながる。官邸主導で官僚は忖度に終始し、政治の活性化も失せてきた。多様な意見が持ち味だった自民党内が、いつしか「一強圧力」で単色に染まり、政策の幅も欠いてきた。

 典型なのが、強い農業、攻めの農業という成長産業化ばかりを前面に出した農政だ。相次ぐ巨大自由貿易協定であるメガFTAの締結に、農業者の不安は募るのも当然だ。だがここに来て、改革偏重を軌道修正する動きが表面化してきた。2020年度畜産酪農関連政策決定で中小農家への配慮を明確にした。3月に見直し期限を迎える食料・農業・農村基本計画策定に関連し、江藤拓農相は生産基盤の強化や規模を問わず支援する内容を盛り込む考えを改めて表明。首相は年頭会見で生産基盤重視に言及する一方で、農政改革継続も強調した。農政軌道修正が本物かどうかしっかり見極めねばならない。

 政権は、生産現場で安倍農政への不信が根強いことを改めて認識すべきだ。JAなどを核とした真の地方創生を推進しない限り、政府・与党が掲げる「農政新時代」の実現は難しい。試金石は基本計画の行方だ。産業政策と農村政策の均等、食料自給率向上と自給力強化の同時進行などを明確にすべきだ。
明治150年の「大局観」を
 子年の中でも60年に一度の「庚子」は大波乱が待つ。こうした中で、世界は早くも中東で火の手が上がるなど動乱の予兆が相次ぐ。さてわが、酪農・乳業界も自由化加速で地殻変動が起きかねない。ここは、歴史の大局観を持ちながら、あすへの羅針盤を携え「日本酪農丸」の安全運航に心掛けたい。

 大局観は、ある意味で長期的な視野でこれまでの歴史を振り返り、それを土台の一つに、今後の近未来を見通すことでもある。Jミルクは、明治維新150年を踏まえ酪農・乳業の150年の歴史を探る事業を展開中だ。全国4カ所でのシンポジウムを開催したほか、関連史料など約1000点を収集した。今後、150年の史料整理を進め、Jミルクのデータ拠点化も進める。これを活用し、長い歴史を有する酪農王国・九州の展望も探ってみたい。

 日本の酪農・乳業の歴史は、維新後の文明開化に伴う食の洋風化、明治政府による牛馬振興路線と軌を一にする。富国強兵で体格向上に食肉や牛乳・乳製品摂取奨励なども後押しになった。これまで酪農乳業の150に及ぶ歴史の概要は分かっていたが、国の補助事業などを受け、全国各地の歴史を掘り起こした。

 維新後の大きな動きは、150年前の1869年(明治2)の政府による東京での築地牛馬会社の設立。築地は外国居留地もあり、安定的な牛乳需要があった。それ以降、各地に官営牧場をつくり、生乳生産を拡大していく。

 150年の歴史を50年単位で区分すると分かりやすい。100年前は現在の明治、森永など大手乳業の前身ができる。ホクレンも今年創設100年を迎えた。50年前は酪農不足払い制度ができ、乳製品の価格安定が担保された。農民資本による乳業メーカーも創業し、北海道酪農の生産振興が本格化していく。そして今、都府県酪農の地盤沈下が深刻化する一方で、相次ぐ乳製品自由化は、新たな国際化局面を迎えた。Jミルクは「150年の歴史、知見を踏まえ、持続可能な産業として次の100年を展望することが重要だ」と強調する。

 150年シンポは昨年の東京を皮切りに昨年12月の福岡まで、全国4カ所で開いてきた。約500人が参加した。会場では専門家の歴史的な知見を踏まえたパネルデスカッションのほか、関係文献、ミルク缶、当時の牛乳瓶、簡易バター製造器などを展示。各地の独自の酪農乳業発達史も分かるような工夫を凝らした。

 Jミルク内に、乳製品の歴史を研究してきた食文化研究家の和仁皓明氏ら15人で構成する委員会を設置。現地調査を重ね、歴史的な文献や乳業社史など貴重な史料の収集を重ねてきた。総数は約1000点に達した。この中には、これまで酪農・乳業史の発展で解明されてきたものとは異なる事例なども含まれる。

 Jミルクでは、酪農乳業史のデータを閲覧できるサイトを立ち上げているが、年明け以降、今回の収集史料なども整理、分析し随時、拡充していく考えだ。最終的には、国内酪農乳業産業史のデータ拠点化を目指す。
新たな「乳の価値」必要
 自由化の加速や生産基盤弱体化で、国内の酪農・乳業は大変革期を迎えている。一方で、生乳の新たな機能性の知見が次々と明らかになってきた。「人生100年時代」を迎え、健康寿命を支える「乳の価値」をさらに探求したい。それが、酪農家の生産意欲とも結び付き、増産にもつながるはずだ。

 今年は、酪農・乳業界の節目の年と言える。国内初の乳酸菌飲料であるカルピスの発売から100年、国内生乳の6割近くを生産する北海道の指定生乳生産者団体、ホクレン設立からも100年を迎えた。健康ブームをけん引した森永乳業のビフィズス菌ヨーグルト発売から50年。そして、本格的な国産チーズ振興となった北海道農協乳業(現よつ葉乳業)の大型チーズ工場建設から40年となる。十勝の開拓農家を描いたNHK連続テレビ小説「なつぞら」。この中でも、よつ葉乳業がモデルとなり酪農民団結の象徴である乳製品工場建設が取り上げられた。

 改めて「乳の価値」を深掘りすべきだ。健康をキーワードにした「腸活」という造語が広がってきた。健康増進に役立つ腸の働きを活性化させるという意味で、乳酸菌や大腸で活躍するビフィズス菌の機能性が注目されている。元々、牛乳、乳製品は、日本人に不足しているカルシウムをはじめビタミンなどがバランスよく含み、学校給食でも提供されてきた。健康長寿を促すため、以前は幼児向けだった粉ミルクの高齢者向け製品も伸びている。

 昨年11月に明治、帝人、島津製作所などの異業種が連携した共同組織を設立した。狙いは、健康寿命を延ばし歳を取ることを前向きに捉える考え方である「プロダクティブ・エイジング」を促す取り組みである。新商品開発も進めていく。根幹は「乳の価値」の深掘りだ。

 三島海雲が考案したカルピスは、商品開発で進化し食卓に定着した。ヨーグルトは、雪印メグミルクが新たな機能性を付与した新商品を年明けから投入する。明治も今後1年をめどに新商品を開発中と見られ、市場活性化が期待される。食品大手のキリンも乳酸菌の機能性に注目し、健康増進商品の開発を加速している。昨年11月には、カマンベールチーズが認知症予防に役立つとの研究成果発表もあった。

 相次ぐメガFTAの発効で、自由化リスクへの対応は待ったなしだ。農水省は国策としてチーズの国産振興を進めてきた。関税削減が進むわけで、国内対策の拡充が問われる。こうした中で、農研機構は昨秋から国産支援の一環で「Jチーズ創出プロジェクト」を始動。発酵時の乳酸菌であるスターターの国産化を進めている。

 今春に向け現在、10年後を見通す新たな酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)を論議中である。「乳の価値」に注目した、生乳の需要拡大策も掘り下げるべきだ。
(次回「透視眼」は4月号)