ふくおか県酪農業協同組合

  • みるく情報
  • 透視眼
  • 求人案内
  • リンク
アクセス

透視眼

例年と違う「6月牛乳月間」に 酪農家窮状と共感の輪を
6月1日は「世界牛乳の日」、6月は「牛乳月間」だ。Jミルクは「ミルクのバトンリレー2022」を柱に据え、SNSなどで牛乳・乳製品理解の発信を強める。今年は例年とは違う。ウクライナ問題、生乳需給緩和の深刻化は、酪農経営に大きな打撃を与えている。この機会に、酪農経営の実態と消費者との共感の「輪」づくりを広げたい。
Jミルク「感謝の思いつなぐ」
Jミルクは牛乳月間で「ミルクのバトンリレー2022」と銘打ち、SNSでの情報発信を強める。
今年は国連食糧農業機関(FAO)が6月1日を「世界牛乳の日」と定めた2001年から21年、FAOの働きかけを受けJミルクが6月1日を「牛乳の日」、6月を「牛乳月間」とした2007年から15年となる。ただ、認知度は今ひとつというのが実情だ。元々6月は記念日など催しが多く、「牛乳」が埋もれがちだ。

各メーカーは、それぞれのブランドを持ち販促活動するため、一般名詞の「牛乳」が目立ちにくい状況もある。課題は多いものの、今年は何とか盛り上げたい。
6月「食育月間」と重なる
6月は「食育月間」とも重なる。酪農・乳業のアピールは、食育の一環でもある。今年の食育月間の取り組みを見ると、今の食を巡る状況が浮き彫りとなる。
人生100年時代の長寿社会の中で、健康を支える食育の推進をまず掲げるのは例年通りだ。
次に「持続可能な食を支える食育の推進」を挙げた。国連の持続可能の開発目標(SDGs)と食育を踏まえた、食と環境の調和だ。具体的には三つ。環境と調和の取れた食料生産と、その消費に配慮した食育を進める。農山漁村を支える多様な主体とのつながりの深化、人の輪を強める。農林漁業体験の推進、生産者と消費者との交流促進、地産地消など食の循環を担う多様な主体とのつながりを広げ深める食育を行う。
また、日本の伝統的な和食文化の継承を掲げた。食育活動を通じて、郷土料理、伝統料理、伝統的な地域の多様な和食文化の次世代への継承するための食育推進を挙げた。

最後は、コロナ禍での対応だ。「新たな日常」やデジタル化に対応した食育推進を掲げた。
食育とミルクの融合
食と農関連だと、やはり6月は「食育月間」が一般的だ。2005年制定の食育基本法に基づき、食育推進大会を含め関係機関挙げて取り組む仕組みが整っている。

ここにミルクが入り込む余地はないだろうか。食育は日本の伝統食の和食と結びつけて論じられている。ただ、食育の一環でもある食農教育は、中央酪農会議の酪農教育ファームが先鞭を付け、稲作など他品目にも横展開した経過がある。

さらに大切なことは、ミルクと和食の親和性を既に形にし、着実に広がっていることだ。塩分控えめで不足しがちなカルシウムなど栄養価に富んだ「乳和食」を、「食育月間」とも合せ「牛乳月間」とのW月間で広げたい。いわば、食育とミルクとの融合である。
「給食のない日にも牛乳を」
注目したいのは、Jミルクの今回の月間PRにもある「給食のない日に牛乳飲もう」無償リーフレット提供だ。現在の生乳需給緩和と密接に絡む。

この間、需給ギャップから大量生乳廃棄の恐れがあるとして、年末年始に始まり、3月の年度末、5月のゴールデンウイークと異例の需要拡大を国民に訴え、どうにか廃棄を回避してきた。危機的状況だった年末には、一般国民向けの会見で岸田文雄首相自ら、牛乳をもっと飲もうとの異例の訴えを行ったほどだ。
幸いにも、こうした呼び掛けやマスコミにも特集が組まれるなど社会的関心が高まり需要が伸び、廃棄は回避された。だが、一方で実際の牛乳の消費は底堅いとは言えない状況だ。根本的課題は何も解決していない。
北海道6月生産ピークへ
生乳需給では北海道の動向が注目される。6月に向け年間生産のピークに向かうためだ。
4月の中酪販売乳量は、前年同期比で北海道102・9%、関東101・0%、九州97・8%、都府県合計では99・0%、全国ベースでは101・5%。西日本が軒並みマイナス生産になっている。
北海道は5月上旬で前年同期比102・9%。増産の勢いは鈍化しており、生産抑制が徐々に効いてきている状況だ。いずれにしても、北海道の生産動向が今後の生乳全体の需給を左右する。一方で、西日本が減産となっており、夏場の需給への影響も注目される。
いつもと違う牛乳月間に
生乳廃棄問題は、需給ギャップで処理不可能乳の発生懸念から来ているが、大きくは学校給食牛乳の停止時期と密接に関係する。今の生乳問題は、安定的な需要先である給食の需要が長引くと、一挙に過剰処理が表面化する構図だ。つまりは、需給が過剰に近いすれすれの戦で日々営まれている実態を示す。

そこで今回の「牛乳月間」の取り組み、消費者への訴えはこれまでとは違う内容を酪農団体は考えた方がいい。単なる「もっと牛乳を飲みましょう」ではなく、危機的現状の構造を分かりやすく解くのだ。そのための、独自のイラスト入りパンフレットを作るのも必要だろう。
「悪い円安」家計直撃
もう一つ、今回の「牛乳月間」で酪農家が目指すことがある。経営の実態、窮状を消費者に分かってもらうことだ。
ニュースで毎月のように、食品値上げが報道されている。20年ぶりの円安が、原料高となって食品業界を圧迫している。輸入麦に頼る製粉業界は好景気だが、乳業などは苦戦を強いられている。いわば「悪い円安」が日本中を覆ってきた。

円安は一時、株高に連動し、自動車など輸出業界を中心に経済界では歓迎されてきた。だが程度問題だ。製造拠点を海外に移し、いくら円安になっても日本からの製品輸出は限られる。株価は上がらず、賃上げも伸び悩む一方で、食品や電気料金上げは家計に直接響く。「不況下の物価高」を意味するスタグフレーションをいう言葉も、1970年代の石油危機以来、半世紀ぶりに使われるようになってきた。

異次元の金融、財政政策、貿易自由化の加速を進めたアベノミクスが「逆噴射」しているようだ。ほぼゼロ金利で、日銀の金融政策の政策的対応の余地はない。インフレ抑制へ米国が金利を段階的に上げているのとは逆に、日本は金利を少しでも上げれば景気後退局面に入りかねない。日銀は打つ手がない。円安に歯止めがかからず、輸入原料高は止まらないという構図だ。
酪農家の給料=乳価据え置きでいいのか
2021年度飲用乳価交渉は実質「据え置き」となった。乳価は酪農家の給料で、特に飲用向けは酪農家全般に行き渡る。需給緩和なのでやむを得ない面もある。だが、それも限度がある。酪農家の再生産ラインを割り込む乳価水準なら、経営を続けることは難しくなる。

指定団体によっては、生産資材高騰などによっては22年度中の乳価「期中改定」要求を保留し条件付き乳価交渉妥結もあった。当然だろう。

筆者は、5月の決算会見で最大手・明治HDの川村和夫会長に「期中改定」の見通しを直接質問した。業界紙などでも紹介されているが、結果は酪農家の苦しい現状に理解を示しながらも「今生乳需給改善に業界挙げて取り組み時期だ」と、「期中改定」には応じない姿勢を示した。需給緩和はコロナ禍で起きたもので乳業のせいではないが、乳業メーカーもバター、チーズなど製品価格を相次ぎ値上げしており、酪農家だけが乳価据え置きでは不満が高まるのも無理はない。
日本以外の世界は乳価高騰
酪農乳業界は日本だけが違う景色となっている。欧州や米国、オセアニア、中国など、世界の乳価は日本を除き、軒並み記録的な高値へと暴騰している。飼料コストの増加や天候不順で粗飼料の出来が悪く生乳生産が低迷し、国際乳製品需給が逼迫しているためだ。
こうした中で、日本の酪農は二つの意味で「出口」をふさがれている。まずは国内の過剰乳製品、特に脱脂粉乳の行き場を海外に求められないことだ。内外価格差が大きすぎる。次に、国による乳製品在庫調整の仕組みを放棄していることだ。
国の在庫対策は無力
あくまで民間主体で需給調整をするのが基本で、今回のように10万トンを超す前例のない脱粉在庫処理などで、財政負担の限界もあり対応が行き詰まってしまう。
さらに官邸主導農政で酪農不足払い制度廃止、改正畜産経営安定法施行に伴い、指定団体の生乳全量委託が撤廃されたことだ。今の酪農行政は、過剰に対応できない。不足時を前提として、個別酪農家の自由度を高めた。そのツケが、今の生乳需給緩和を一段と難しくしている。
今回の「牛乳月間」は、こうした酪農家の経営問題と構造問題も訴える機会にしたい。


(次回「透視眼」は8月号)