ふくおか県酪農業協同組合

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維新150年に酪農大変革 重要な「競争」より「共創」
 2018年が幕を開けた。平成30年の元号はあと1年4カ月で終わる。今年は大変革の年である。いわば「2018年問題」と言っていい。国内農業の基幹作目、米と酪農を支えてきた制度が様変わりする。こうした中で問われるのは「競争」よりも共に前に進み新たな価値を創造する「共創」の心ではないか。指定生乳生産者団体への結集と機能強化が改めて問われる「新年」となろう。
「2018年問題」の始まり
 いわば「2018年問題」のスタートである。パソコンの機能不全を憂う「2000年問題」のような言いぶりだが、今年はそれだけ予測不能で不透明な事態が起こり得る。
 大きな節目は11月の米国中間選挙である。大統領選後の偶数年に当たる。上院議員の3分の1、下院議員の全員の改選となる。「米国ファースト」で世界秩序を多国間主義の協調から、2国間主義へ転換してきたトランプ政権の「中間評価」が問われる。現在の与野党の議席数は上下院とも与党・共和党が多数派を占める。だが、その差はわずかで、11カ月後の中間選挙で与野党逆転は十分にあり得る。選挙公約だった法人税の大幅減税の法案を通したトランプ大統領だが、選挙結果によっては、法案が議会を通らなくなりレーム・ダック(死に体)状態に陥りかねない。
 こうした米国にとって重要な2018年問題は、日本にとっても影響が及ぶ。既に米国は環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明し、今後の貿易交渉を2か国間の自由貿易協定(FTA)で対応する。年明け以降、日米新経済対話が日米FTAにいつ代わるか予断を許さない。今年は米国は「政治の季節」となる。実績を求めるトランプ政権が、日本市場で強硬姿勢を取る可能性が高い。
米と酪農でも変革迫る
「2018年問題」は、基幹作目で重要5品目の米と酪農でも大きな変革を迫る。稲作は国からの生産数量目標の配分がなくなる。併せて生産調整実施者に配分されていた米直接支払交付金10アール7500円(総額約700億円)が廃止された。これで米の生産調整は機能するのか。過剰生産になれば、米価低迷は数年前に経験済みだ。
 よくマスコミをにぎわす「減反廃止」とは全く意味合いが異なり、これまで通り需要に応じた米生産の基本路線は変わらない。では、国の配分がなくなる中で地方ごとにある関係団体で構成する農業再生協議会で生産目標の話し合いが欠かせない。中でも農協が大きな役割を担うのは間違いない。いわば「農協食管」への転換とも言えよう。
 一方で、4月からの改正畜産物経営安定法に伴い、酪農は生乳流通が多様化、複線化する。農水省は今回の酪農制度改革の効果を1・暫定法から恒久法に代わり生産者補給金制度が安定的な制度となり畜産経営の安定に寄与2・補給金の交付対象拡大で生産者の生乳出荷先の選択肢が拡大。創意工夫による所得向上の機会創出3・指定団体の流通コスト削減や乳価交渉の努力を促す4・これまで飲用向けばかりに出荷していたものをバター等の加工原料向けにも販売する方向に誘導ーーと具体的に挙げた。しかし、どこまで楽天的で机上の空論かと思わざるを得ない。
 要は、規制改革推進会議の指摘を受け、一定の条件を満たせば指定団体を経由しないアウトサイダーにも交付金を支給するというものだ。酪農家は指定団体とその他業者のバルククーラー単位、農場単位の「二股出荷」が可能となる。一見、選択肢が増えて生産者重視の対策に見えるが、結局は「飲用シフト」で全体需給が混乱すればプール乳価が下がり、その負荷は酪農家の経営に回りかねない。一部の農家の「いいとこ取り」が全体の乳価に悪影響を及ぼさないか、新制度の運用を注視する必要がある。
 結局は、バター不足に端を発した指定団体制度を含む酪農制度見直しは、バター不足をかえって助長し、酪農家の手取りアップとも逆行する恐れがある。今は「競争」よりも「共創」の時代だ。共販率が高いほど高乳価を実現していることは、他国の事例でも明らか。全体生乳生産の5割を超すガリバー・北海道と都府県酪農の「共存」を担保した加工原料乳不足払い制度の廃止は、これまでの「南北協調」に大きな影を落としかねない。国の責任も厳しく問われなければならないだろう。
畜酪価格決定と生産基盤
 2018年度畜産・酪農政策価格が決定した。新制度に移行する酪農は加工原料乳生産者補給金を引き上げ、肥育牛農家の経営安定対策(牛マルキン)でも緊急対策を行う。貿易自由化圧力が増す中で、生産基盤の弱体化に歯止めがかからない。関連対策活用を含め基盤維持に総力を挙げるべきだ。
 畜酪価格決定を受け、農業団体は「現場の窮状に対応したもの」と受け止めている。だが、まだまだ十分とは言えない。問題は、実際に生産基盤の維持・強化にしっかりとした成果が現れるかどうかだ。
 来年度からの酪農新制度を踏まえ、補給金と集送乳調整金単価は合計で生乳1キロ当たり10円66銭と前年度に比べ10銭の引き上げで決着した。最大焦点の新設する集送乳調整金は同2円43銭で決まった。「あまねく生乳を集めるコスト」で、事実上、現行の指定生乳生産者団体に交付される。加工向け限定とはいえ、単価が高いほど指定団体への結集力が増し共販率と連動する。今回の算定が新制度に移行する「発射台」の位置付けだっただけに、この水準が適正かどうか今後、議論を深めたい。
 畜産では、経営悪化が懸念される肥育牛で、緊急的な財政措置によって牛マルキンの補てん率を現行8割から9割に引き上げる。適切な措置だ。
 政策価格と関連対策をあわせて、今後の畜酪政策へのメッセージと受け止めなければならない。今後、厳しい国際競争にさらされる国産チーズ対策は、競争力強化へ酪農家の努力が報われる支援、財政的な配慮を求めたい。
 11カ国による環太平洋連携協定(TPP)11の大筋合意や日欧経済連携協定(EPA)妥結など、相次ぐ貿易自由化の荒波は国内の畜酪に襲い掛かる。生産現場からは「バケツの底が抜けたような市場開放の連鎖だ」との懸念も広がる。「自由化ドミノ」の動きは、食料自給率や食料安全保障との関連でも厳しく問われなければならない。
 先行き不安は、生産者の営農意欲に影響を与える。米国との経済協議も本格化する。こうした中での、今回の畜酪政策価格決定である。自民党が圧勝した先の衆院選結果を踏まえ、どれだけ政治力を発揮できるのかも問われた。牛マルキンの緊急措置は、これに応えたものだ。最大の国内対策は、自由化しないことだ。だが、経済が一段とグローバル化する中では、関税削減など市場開放の度合いと、国内生産をできるだけ維持し打撃を最小限にとどめる農家支援策が欠かせない。競争力を高め輸出など「攻めの農政」も必要だろう。
 今回の畜酪政策価格・関連対策決定に当たり自民党農林合同会議は10項目で決議し、政府に申し入れた。国産チーズ対策、地域ぐるみの増産計画を後押しする畜産クラスター事業での家族経営への配慮、マルキン補てん率引き上げ、酪農新制度移行での「いいとこ取り」など生産者間の不公平を生じさせない運用などだ。いずれも畜酪生産基盤を支えるものだ。今後の政策展開で具体化すべきである。
集送乳調整金の「発射台」
最大の焦点は、酪農新制度移行に伴い新設する集送乳調整金の扱いだった。現行の指定生乳生産者団体への「結集」の試金石となる。生乳需給調整強化にも直結する問題である。
 最大の課題は、弱体化に歯止めがかからない生産基盤の維持・強化である。これに加え、自由化の一層の進展が今後、どういった悪影響を与えるかも懸念材料だ。中小規模層の脱落を、大型経営が規模拡大して補う形が限界に達しており、地域単位での生産基盤の底上げが待ったなしの状況と言っていい。酪農家戸数は1万6000戸割れ、乳牛飼養頭数も130万頭の大台割れが目前となってきた。肉牛飼養戸数は5万戸割れが確実で、微増に転じた飼養頭数も枝肉価格の低下で再び黄色信号がともる。
 改正畜安法で、これまでの指定団体による一元集荷多元販売の仕組みが抜本的に見直し、生乳流通の複線化を認めた。一定の条件を満たせば指定団体を通さないアウトサイダーにも加工原料乳補給金が交付される。同調整金は、条件不利地を含む広範囲に集乳を行う指定団体の機能を実質的に後押しする。
 酪農関連対策では、日欧経済連携協定(EPA)の大筋合意に基づき、特に影響があるチーズ対策の拡充が課題だ。政府・与党は補正予算案で国産チーズ対策に90億円を計上した。一定水準以上の乳成分など品質に着目した支援で、実質乳価に反映する仕組みも焦点となる。協定発効に伴い関税率の段階的な引き下げで今後、ブランド力のある欧州産ナチュラルチーズと国内乳業メーカーとの国際競争が激化する。生産者乳価への影響も懸念される。農水省が旗振り役となってきた国産チーズ振興がどうなるのか、はっきりした国の将来戦略も問われる。
「需給の安定」どう担保
 4月から加工原料乳補給金の交付対象が拡大される中で、生乳全体の需給調整機能の実効性が改めて問われる。全国の酪農家の経営を安定するには、指定生乳生産者団体に結集し共販体制をより強固にしていくしかない。
 酪農制度が大きく転換する。改正畜安法の第1条に「需給の安定」を明記し生産者補給金措置の恒久化を図ったことは重要だ。大きな課題は生乳需給調整が機能するのかだ。国内生乳減産の一方で、自由化の進展に伴い今後の輸入乳製品の増加は明らか。北海道大学の清水池義治講師は「国による需給調整には無理がある」と指摘する。

 これまでの指定生乳生産者団体への一元集荷・用途別多元販売の仕組みが変わる。補給金対象を拡大し、生乳の原則全量委託から部分委託が広がりかねない。酪農家が農場ごとに出荷先を変える「二股出荷」も可能となる。政府は、安定した生乳需給の安定化を図り、酪農家に不公平感が生じない厳格な制度運用の責務が問われる。中央酪農会議副会長で九州生乳販連会長を務める尾形文清氏はマスコミのインタビューで「指定団体の共販率を維持する必要がある。実態に応じ制度の適切な運用改善が欠かせない。規制改革会議の指摘は全く生産現場を分かっていない」と強調。JA北海道中央会の飛田稔章会長は「酪農現場への影響は新制度の運用後に評価されるべき」としている。制度が実際に動き出し、生乳需給、流通に支障がでれば迅速な対応が必要だ。
乳業も安定供給要望
 乳業メーカーも引き続き安定的な生乳取引を切望している。雪印メグミルクの西尾啓治社長は、昨年の上期決算会見で改正畜安法を踏まえ原料乳の安定した数量、価格、品質確保と酪農家の公平性確保が大前提と強調。そのうえで「必要に応じ運用改善をすべき」と指摘した。大手乳業は特に高い乳質を求めており、安全性の厳格なチェック体制が整う指定団体ルートの取引を重視している。ただ、今後の深刻な原料乳不足によってはスポット買いの余地も否定できない。
 農水省は改正畜安法の政省令、生産局長通知が公表し新たな加工原料乳補給金制度が決定。これを受け、同省は昨秋、全国5カ所で説明会を開いた。中でも質問が多かったのが、いわゆる「いいとこ取り」の排除に向けた生乳取引の拒否規定。踏み込んだ例示などを求める指摘が相次いだ。さまざまなケースが想定される。新制度が動き出せばトラブルになる可能性もある。混乱を招かないためにも、具体的な例示も必要ではないか。
 各指定団体は、制度改正を受け昨年末には会員農協を集めた総会で定款改定などを実施。年明け2月までには生産者と新たな受託契約を結ぶ。9割を超す共販率の高さは、保存が効かない生乳の特質とともに、生産者が結集して共販していくことが結局は乳価と酪農経営を安定させていくことの証しだ。そのことを全国の酪農家と再確認したい。大変革期を迎える今こそ、指定団体の役割発揮の時だ。
(次回「透視眼」は2月号)