ふくおか県酪農業協同組合

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酪農版ブラックアウト 実質的な日米FTA入り懸念
 まずは、全国規模で続く異常気象をはじめ災害の多発を指摘したい。台風シーズンはこれからが本番である。北海道地震から1カ月。巨大地震は全道の電源を奪い、連動していわば「酪農版ブラックアウト」も起きた。後遺症は今なお続き生乳需給は混乱したままだ。一方で国際的には、リーマン危機から10年。新たな政治・経済危機は、米中2大国の貿易戦争と形を変え火を吹く。今後のトランプ政権の行方を左右する米中間選挙まであと1カ月。米国はどんな理不尽な通商交渉を仕掛けてくるか要注意だ。日米首脳会談では、実質的な日米FTAである物品貿易協定の交渉入りで合意した。新たな関税引き下げに懸念が強まる。
需給見通し先送りの異常事態
「想定外」。こんな言葉は聞き飽きた。とんでもない事態が起きるたびに繰り返されるが、今回ばかりは、先の言葉を口にするのが許されるかもしれない。何せ全道約200万世帯の電源がほぼなくなったのだから。改めて電気こそが、現代社会の社会的な基本インフラだと思い知ったことはない。しかもそれが、巨大生乳産地の北海道酪農と道内の最新鋭大型乳業工場を直撃するとは。そんな驚きが募る。

 北海道を直撃した巨大地震は、全国生乳の過半を占める酪農に大被害を与えた。後遺症は長引きそうだ。Jミルクによる10月以降の生乳需給見通しが大幅にずれ込む異常事態だ。多くの課題も浮き彫りとなった。北海道の復興を急ぐとともに、都府県酪農の底上げも同時に図ることが欠かせない。今回の地震を契機に、日本酪農の構造問題を直視し、その是正を着実に進める必要性を強く思う。

 大地震で北海道の電力がほぼ全て停止した「ブラックアウト」。これに伴い市民生活はもちろん、道内産業も大きな打撃を受けた。農業・食品分野では特に生産から製造、流通、販売と一気通貫で結び付き日々の需給に対応するミルク・サプライチェーンが寸断された。関係者からは「これは酪農版ブラックアウト」だとの悲鳴が漏れたほど深刻の事態に陥った。全道規模の停電は即、道内酪農・乳業の生産不能と表裏一体で被害が拡大した。

 生乳は冷却しなければ、わずかの時間で変質し腐敗が進み販売不能となる。近年の酪農大規模化に伴い、搾乳から一時保存し乳業工場へミルクローリーで運ぶ仕組みは、全ては電化された仕組みだ。停電と余震は乳牛に乳房炎とストレスを招いた。自家発電でせっかく搾っても、受け入れ先の乳業工場が停電と地震被害で稼働しない。集乳するタンクローリーも台数が限られた。地元JAや酪農家同士の懸命の対応でも、大量の生乳廃棄が余儀なくされた。それでなくても、夏前の天候不順から一番牧草は質量ともに例年を大きく下回る。購入飼料への依存が高まり飼料代がかさむ。二重、三重の打撃が道内酪農を生産縮小の悪循環の中に巻き込みかねない。

 今年は、生乳最需要期の夏を前に「9月危機」の4文字が酪農・乳業界でささやかれていた。以前から指摘されている都府県酪農の地盤沈下に歯止めがかからず、学校給食向け牛乳の供給が再開する9月上旬に、飲用牛乳の欠配が表面化しかねない。そんな心配が例年以上に広がっていたのだ。全国生産の5割以上を占める酪農主産地・北海道からの生乳移出の限界は、道内産地パック製造も含め一カ月で6万トン。Jミルクの生乳需給見通しは、最大限の6万を明記したうえで、「例年以上の綱渡りの需給となる。全国的な過不足調整が欠かせない」と警告していた。だが、「9月危機」は酪農主産地・北海道への大地震という別の形で、しかも「ブラックアウト」の最も深刻な影響を伴いながら現実化したと言っていい。

 こうした中で、Jミルクは9月20日、理事会で10月以降の今年度生乳用途別需給見通しを論議した。だが、大産地の北海道の生乳生産の地震の影響を慎重に見極めるため、需給見通しを10月中旬以降に先送りする異例の事態となった。通常、関係者の論議を踏まえ9月末に最新の需給見通しを示す。農水省は並行してバター最需要期の冬場を需給を考慮した乳製品輸入数量を決める。

 大都市での牛乳や一部乳製品の供給制限が顕在化している。今の生乳需給混乱は何を意味するのか。酪農構造問題のより深刻な事態にどう対応すべきか。都府県酪農の地盤沈下を、北海道の生乳移出で賄う「一極対応」の限界を示した。乳房炎対策をはじめ北海道の一刻も早い復興と並進し、都府県の底上げも欠かせない。全国的な視野に立ち、北海道と都府県双方の均衡発展が必要だ。さらには、万が一に備えた電源確保の多様化も大きな課題となる。
リーマン危機以後の米中激突
 リーマン・ショックから9月で10年を迎えた。「100年に一度」の金融危機とされた。あのリーマン危機が、結果的にトランプ大統領を生み、経済・軍事両面の中国の膨張主義を誘い、歯止めが効かなくなった今の米中貿易紛争を招いた。2008年9月15日は、歴史の大きな転換だったと言えよう。

 幾多の重大危機に直面した世界経済は、先進国を中心とした国際的な金融協調で難局打開を図ってきた。特に、深刻だったのが米国発の経済危機だ。2008年9月15日の米証券大手・リーマン・ブラザーズの経営破綻は、米国を軸に日欧が結束してきたG7(先進7カ国)だけでは対処不能に陥った。

 リーマン危機後、世界はこれまでとは全く異なる新局面に入ったと言っていい。08年11月、米ワシントンで中国など新興国も加わるG20(主要20カ国・地域)の首脳による金融サミットの開催だ。それ以降、中国の影響力が国際的な強まり現在に至る。国内総生産(GDP)で中国が日本を抜き世界2位となるのはその2年後、10年だ。中国はリーマン危機直後に4兆元(当時レートで57兆円)もの巨額の景気刺激策を打ち出し、世界経済の底割れをふさいだ。

大国化した中国の経済力は米国に迫り現在、両国の貿易紛争が激化している。一方で迅速で手厚い米国の大銀行救済策は、取り残された人々の不満と政治不信を膨らませ、やがてトランプ大統領の誕生につながる。

 10年前の日本はバブル崩壊の傷が癒えたばかり。海外市場の急速な冷え込みは、輸出主導型の日本経済に大打撃を与える。特に、リーマン危機以降、対ドル為替相場が120円前後から一気に80台にまで円高になり輸出が急減した。金融では国際取引を担う農林中金の経営が急速に悪化。大幅な赤字決算に陥り、翌09年にはJA会員などから1兆9000億円に上る大規模な増資を受けた。やがて金融市場の回復もあり、一時約2兆円のマイナスとなった有価証券の評価損益はプラスに転じ、危機を脱した。

その後、農中はいま一度、存在意義を見つめ直し農林水産業のリーディング金融機関の「原点回帰」の自己改革にまい進。全農との連携を強め、食農ビジネス支援など現在の自己改革への強力な後押しを実践中だ。
 農中の経営問題はあったものの、リーマン危機の中でも世界的に見れば欧州を中心に協同組合金融は健全性を保った。地域に根ざした相互扶助の協同組合の強さが、12年の国連による国際協同組合年の制定につながる。

いま、途上国の通貨危機や貿易紛争激化の中で、世界同時不況の足音も高まってきた。リーマン危機から10年の教訓は、協同組合の原点を見つめ直すことから始まる。
米中間選挙あと1カ月
 リーマン危機とその後の国際政治・経済環境の激化が、今の米中貿易戦争の引き金となる。飛び火は、9月下旬の日米首脳会談に見られるように日本にも降りかかる。米中貿易戦争で、中国市場から締め出された牛肉や大豆など米国産農畜産物が、新たなマーケットを求め、輸出攻勢を強めかねない。交渉次第で日本農業にも再び市場開放の波がやって来る。

 11月6日火曜日は、2018年の最大の焦点である米国の中間選挙の投開票がある。現在、トランプ政権の与党・共和党が上院・下院との多数派を占める。こんな中でのトランプ大統領の世界中を相手の傍若無人な振る舞いである。だが、中間選挙結果次第で、トランプ台風の勢いと針路は大きく変わり得る。
安倍新内閣の農相の手腕は
 自民党総裁選で異例の三選を果たした安倍晋三首相だが、逆に言えば「終わりの始まり」でもある。任期は最長で2021年9月までの3年間。その間に国政選挙や閣僚のスキャンダルなど、幾重ものハードルが待つ。いつ政権が終わっても不思議でないのが政治だ。「一寸先は闇」である。

 内閣改造で石破派の斎藤健氏に代わり新農相も誕生した。農水事務次官も7月、官邸主導の農協改革や生乳制度改革の旗振り役を担った奥原正明氏から、経済産業省に出向していた末松広行氏に変わった。奥原氏は異常なまでの農協嫌いで特に全中には敵意をむき出しにした人物だ。農協法改正で全中の力の源泉だった監査権をなくし、農協法から中央会規程を削除。農協の司令塔・全中は一般社団法人へと「島流し」にした剛腕を振るった。それもこれも、同様に農協嫌いの菅義偉官房長官の意を踏まえた蛮勇だった。

 一方で末松氏は、官邸に長くいた改革派だが温厚な性格で前任者のような急進的な農政改革、いや改悪は行わないと見られる。ただ、政治や国際問題が絡み制度も複雑な米や牛乳、砂糖の「三白」を対応した経験がない。関係業界から農政手腕が未知数なことへの不安を指摘する声もある。酪農は、牛乳乳製品課長を担ったこともある松島浩道農水審議官が留任したこともあり、一定の理解はあるとの見方だ。
(次回「透視眼」は12月号)