ふくおか県酪農業協同組合

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生乳需給是正3つの「山」 年末年始の「次」は脱粉過剰削減
社会的に話題になった年末年始の生乳需給緩和。現実に生乳廃棄が目前に迫っていたが、関係者の必死の努力で何とか乗り切った。ただ新型コロナ禍の業務用需要の停滞は解消しそうにない。需給緩和は当面、1年、中長期の「3段ロケット」で考えねばならない。
在庫減らし不透明
1月28日に発表したJミルクの2022年度生乳需給見通しは、乳製品過剰の深刻度を裏付けた。コロナ禍で在庫削減の行方は不透明感を増すばかりだ。
関係者挙げた脱脂粉乳の在庫対策、飼料用への置き換えなどの措置を取っても在庫水準が10万トンを突破することが明らかになった。ホクレンによる前年度計画対比101%(うち1%は新規参入分)の生乳計画生産徹底でも脱粉在庫は9万トンの大台を超える。つまりは、酪農、乳業、さらには国支援の2万5000トンの在庫削減スキームも「対処療法」に過ぎないと言うことだ。
第3四半期増産続く
生乳生産は、Jミルクの抑制呼びかけにもかかわらずなかなか増産基調が止まらない。自動車に例えれば、アクセルを離した程度で、ブレーキを踏むまでに至っていないのが実態だ。

中央酪農会議がまとめた12月の用途別販売乳量は約60万8000トン、前年対比103・1パーセントとなった。主要指定団体では北海道は34万9000トン、同104・5パーセント、関東8万8000トン、同103・6パーセント、九州5万トン、100・8パーセント。これで4月から12月までの2021年度第3四半期合計では、北海道が前年対比103・1パーセント、全国でも同102・4%と推移している。
緩和改善「3段ロケット」
「3段ロケット」とは、まず発射の1段目が年末年始の緊急事態対応だ。これは、酪農乳業界の、いわば「総力戦」でどうにか乗り切った。
2段目は、記録的に積み上がった乳製品在庫のヤマを取り崩し、少しでも減らし需給の在庫圧力を減らす取り組みだ。拠出金を伴う酪農・乳業の自助努力に加え、昨年末の畜酪政策価格・関連対策で、農水省もようやく財政支出を伴う政策支援を決めた。脱粉2万5000トンを削減する目論見だが、生処官のスキームで実際に効果的に減らすことができるか。新年度以降の課題となる。
さらに最後の3段目は、打ち上げたロケット「生乳需給改善」号が正常軌道に乗り巡航速度で飛行できるようになるのか。つまりは、国が2030年目標に定めた生乳生産目標数量780万トンに向けて、再び酪農家が元気を取り戻すのか。中長期的なテーマである酪農乳業の持続可能性、成長産業化と重なる。
「乗り切った」正月明け言明
酪農乳業界で構成するJミルクが「このままでは5000トンとこれまでにない生乳廃棄が出かねない」と年末年始の需要拡大、生乳出荷抑制、飲用向けから保存の利く乳製品への処理対応など、異例の呼びかけを行ったのは昨年10月末。コロナ禍の生乳需給動向を見て慎重な対応をしていたが、放置すれば過剰が深刻になると判断した結果だ。

特に重視したのは、全国の6割近い生産も持つ北海道で前年対比4パーセント台の増産基調が続いていることだ。暖冬もあり、全国2位の産地・関東でも大きな伸びを示していた。Jミルクでは「要注意の黄色信号を灯し警鐘を鳴らす時期だ。このままでは生産基盤を毀損しかねない減産の赤信号となる」との危機感が募った。ただ、乳業の工場は既に大量の乳製品を処理し、在庫を抱えており、果たして本当に廃棄を生じないか確信は誰も持てなかった。

関係者が「生乳廃棄回避」と言明できたのは、ようやく正月明け、1月6日の2年ぶりに開いた乳業関係13団体の賀詞交歓会での大手乳業各トップでのあいさつから。
日本乳業協会の宮原道夫会長(森永乳業会長)は、酪農乳業挙げた対応結果、年末年始の「生乳廃棄」回避を報告すると共に、脱粉在庫の飼料用、輸入品などとの置き換え対策の取り組みを通じて「生乳需給均衡を目指し、1日も早く生乳生産を目標に向けた軌道に安心して乗せられるよう戦局的に貢献していく」と乳業の対応を強調した。
畜産局「ピンチをチャンス」の認識
これに対し、農水省の森健畜産局長はやや楽観的とも言える反応を示した。
森局長は、岸田文雄首相や金子原二郎農相自らが生乳廃棄問題を取り上げ牛乳消費拡大呼び掛けたことなどを踏まえ、「この年末年は消費拡大がメディアやネットで大きく取り上げられただけでなく、小売りや外食、レシピサイトなどを含め協力拡大の輪が広がった」と指摘。その上で、「これをチャンスととらえ、多様なアプローチの元、消費者ニーズに応える牛乳・乳製品の供給と継続的な消費の拡大・定着を図っていくことが今こそ重要ではないか」と、「ピンチをチャンスに」と乳業各社の取り組みを促した。

一見もっともな指摘で、それ自体に誰も異論はないだろう。だが問題は、時宜を得た言葉かということだ。
今の急速な生乳需給緩和は全てコロナ禍での異常事態から起きていることを忘れてはならない。「協力拡大の輪」が広がったことは、あらためて注目していい。関係者の日頃からの消費者、国民を対象にした酪農理解への働きかけと、国産牛乳・乳製品の完全栄養食品としてのメーカーのたゆまない商品努力が、「酪農頑張れ」との声につながった。中央酪農会議の酪農教育ファームの取り組みなども、親子で酪農に親近感を持ち、豊かな情操教育につながる学校関係者の理解も増している。

ただこれらは主に「平時の対応」だ。今は「非常時の対応」が問われる。ふくれあがった在庫は、国内生乳生産を圧迫し、生産抑制という形で営農現場の酪農家の負担を増し、手取り乳価にも影響を及ぼす。とても「ピンチをチャンスに」との常套句では済みそうにない。逆に、コロナ禍の影響が続く中で、農水省の認識の甘さとも映りかねない。
新たなステージ
「生乳廃棄問題」は現在の酪農に置かれた現状を象徴した出来事に過ぎない。廃棄回避で一件落着とはいかない。冒頭の生乳改善3段ロケットの1段目が点火しただけだ。

ではどうする。Jミルクの川村和夫会長(明治ホールディングス社長)が強調する「新たなステージに入った」は的を射た指摘だ。川村氏は「積み上がっている脱粉過剰問題は22年度に一段と顕在化し、消費拡大だけでは持ちこたえられないことも想定する必要がある」と、楽観論を退け深刻な需給実態を直視すべきとする。農水省が想定する脱粉在庫2万5000トン削減にしても、コロナ禍で業務需要不振が長引けばこれ以上在庫拡大にならない水準に過ぎないとの指摘も多い。
さらに川村氏は「将来の需要増を実現していくためにも、生産抑制を伴う中長期的な需給調整に加え、北海道での乳製品増産体制が必要な新しいステージに入った」とした。加えて、将来の酪農乳業振興のためにもフードシステム、気候変動対応など地球環境重視の国際対応の視点も欠かせないとする。「新たなステージ」とは、減産に伴う生乳生産基盤を毀損することなく今回のような需給緩和も想定したメーカーの乳製品処理体制の増強を意味する。これは、アジア市場の拡大も念頭に、新たな投資を伴う大手乳業の中長期戦略とも絡む。
酪農団体「最悪の場合も想定」
繰り返す乳製品過剰処理と生乳生産抑制に関連し、「酪農団体は最悪の事態を想定していた」と明かすのは、首都圏に生乳を供給する関東生乳販連の菊池一郎会長だ。

年末年始の生乳廃棄に際し、メガファームでの堆肥処理や、餌にするエコフィードなどを検討したと言う。幸い、関係者の努力で廃棄は避けられた。だが「年末年始、年度末、また次の年末年始と生産者がびくびくしながら生産する産業は、本当の意味での生業ではなくなってしまう」「このまま過剰対策を繰り返すと、生産基盤強化のための取り組みは終わってしまう。22年度は業界全体がこの難局を乗り切る本当の意味で方向付けをしないといけない」と話す。
年末年始のような生産抑制を含め需給対応の繰り返しが、酪農家の生産意欲を失わせ「縮小再生産」の悪循環に陥りかねないとの危機感を示したものだ。先の畜産局長発言の「ピンチをチャンスに」とは現状認識が大きく異なる。菊池会長の抱く将来不安は、生産現場の多くの関係者の胸の内を代弁したと受け取るのが適切だ。
在庫削減スキーム始動
前述したように年末年始の「生乳廃棄」は、関係者の懸命の努力でどうにか乗り切った。問題は新年度4月以降の対応だ。脱粉2万5000トン削減のスキームも動き出す。

ただ問題は、水道の蛇口、つまりは酪農家段階の需給に応じた生産抑制がどれほど効くのか。そして根本問題は、コロナ禍で主力の飲用牛乳消費を伸ばし、脱粉削減に効果的なヨーグルト需要の拡大しかない。


(次回「透視眼」は4月号)