ふくおか県酪農業協同組合

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子年は「変化」超え躍進を R時代はラグビー型「前へ」
 新年が明けた。今年は令和2年というより、西暦の2020年の方が重要かもしれない。国際的な課題が大きいからだ。日本最大のイベントは、実に56年ぶりの東京オリンピック・パラリンピックである。そして、11月の米大統領選の行方だ。昨年は大災害が相次いだ。今年こそ平穏な日々が過ぎ、日本酪農にって明るい展望をもたらす一年であってほしいと願う。
庚子キーワード
 今年は子年である。酪農とも関連する丑年は来年2021年だから、その前段で国内酪農が飛躍する準備段階を位置づけたい。
 「十干十二支」で見ると〈かのえね〉と読む庚子となる。この年は変化の兆し、新たな生命が動き始めるとの意味合いも持つ。前向きに受け止め、全く新しいことにチャレンジする年にしたい。

 子年に注目し、12年前の2008年を振り返ると、とんでもない年だったことが分かる。五輪と米大統領選は同じ年だが、ちょうどそれに当たる。この年の主役はG2ともされた2つの国、中国と米国だ。世界経済で大きな存在感を示す中国は北京五輪を成功させ、11月の米大統領選では初の黒人出身・民主党のオバマ氏が当選した。今、「新冷戦」と称される覇権争いを繰り広げる米中2大国は、この時には協力関係にあった。そして秋に巨大津波が地球全体を襲う。米国発の金融危機・リーマンショックの将来だ。それ以降、中国の存在感が一挙に増し、先進国主導の国際経済運営が機能不全となり、新興国も交えたG20が発足する契機となった。

 ただいずれにしても、大変化の年が多いのは間違いない。さて今年はどんな変化が訪れるのか注視せねばならない。
改めて都府県に注目
 2020年度畜産・酪農政策価格、関連対策で、最大焦点は生産基盤維持・強化だった。特に都府県の中小規模の家族経営を含め生産の底上げが問われた。今後10年間の展望を示す酪農・肉用牛近代化方針とも密接に絡むだけに、生産意欲を促す価格、政策決定の行方が注目された。

 まず、論議すべきは、改正畜産経営安定法の下で生乳集荷を巡り「いいとこ取り」が増え、飲用向けが増え用途別需給取引に支障が出かねない現状の是正だ。法改正に伴い、指定生乳生産者団体の一元集荷体制が廃止された。結果的に酪農家全体の乳価が減る事態になれば、「何のための法改正だったのか」との疑問がさらに大きくなる。農水省は、生産者の公平性確保を大前提に適正な制度運用を徹底すべきだ。だが、畜酪論議でこうした問題点は不十分なままだったと言っていい。年明けに再開する酪肉近論議で、いま一度、制度欠陥を抱える改正畜安法の在り方を深掘りしてほしい。

 今回の最大の焦点は、生産基盤の弱体化に歯止めをかけ、どう経営を立て直すのか。これには大規模経営ばかりでなく、家族農業が中心の都府県の中小経営への支援拡充も欠かせない。一昨年秋のブラックアウトと称される全道停電で北海道酪農主産地では生乳廃棄を余儀なくされた。昨秋は巨大台風の相次ぐ襲来で、被災農家が増えている。今後とも、被災地が再び生産意欲を回復する目に見える支援対策も大きな課題だ。

 畜酪論議で問われたのは、従来にもまして将来展望が持てる政策価格と関連対策だ。1月1日発効の日米貿易協定をはじめ、相次ぐ大型自由貿易協定に生産者の将来不安も募る。現在、食料・農業・農村基本計画見直しの一環で、新たな酪肉近を巡り関係者で協議中だ。今回の畜酪政策価格、関連対策は、こうした自由化進展や酪肉近論議の方向性を示す〝発射台〟の意味合いも持つ。

 特に酪肉近では、国産乳製品の需要の強さを受け、現行約730万㌧の1割増、最大800万㌧を目指すべきとの具体的な提案も出ている。生産者団体と乳業メーカーなどで構成するJミルクの将来ビジョンでも、10年後の生乳生産を775万トンから800万トンとしている。大前提は、生乳全体の55パーセントを占める北海道の増産傾向が続き、都府県の減産に歯止めがかかることだ。増産分は、今後とも需要増が期待できるナチュラルチーズや生クリーム仕向けを想定している。同時に、酪農所得対策をどうするかの議論も必要だ。

 畜酪農家戸数の減少に歯止めがかからない中で、規模拡大などを支援する畜産クラスター事業の一層の柔軟な対応も欠かせない。中小経営を念頭に、具体的な条件緩和などが必要だ。高齢者から若手への円滑な経営継承も求められる。
ローマ教皇の「言葉の力」
 38年ぶりに訪日しさまざまな感動を残したローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇の存在感を思う。改めて思うのは、信徒ばかりでなく全ての人々の心に届く「言葉の力」である。社会的弱者に寄り添い、平和を希求し、気候変動を憂う教皇の姿勢に学びたい。それは、協同組合の相互扶助、助け合いともつながる。
 ローマ教皇の来日は、平和へのメッセージを国内外に発した先のヨハネ・パウロ2世以来だ。信徒13億人の頂点に立つ教皇の影響力は大きい。それだけに、被爆国の日本での核廃絶のへの強い意志をはじめ、世界が直面する課題解決の具体的言及は重みを持つ。

 教皇は、1549年に日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルと同じイエズス会出身で、日本に強い関心を持ってきた。まず伝来と信徒弾圧、被爆の地・長崎を訪れた理由でもあろう。

 教皇の珠玉の言葉は、協同組合の運動とも重なる。協同組合の先駆者で、大正、昭和期のキリスト教社会運動家・賀川豊彦はその実践者だ。社会的弱者の救済を目指し、生協や共済保険組合、農民組合などを立ち上げた。「農民よ、団結せよ」といった言葉も残した。

 大正期に農民の団結を促し、北海道酪農の礎を築いた黒沢酉蔵。北海道酪農義塾(現酪農学園大学)を開き人材育成に努め、キリスト教に基づく三愛主義も掲げた。神を愛し人を愛し土を愛す。それが、健やかな土が大地を豊かにし良い食物をもたらし健やかな民を育む意味の「健土健民」の4字に結実する。循環農法の大切さと酪農・乳業の在るべき本質を示す。
酪農レジリエンスこそ大切
 ラグビー・ワールドカップ(W杯)の日本チームの大活躍を、今後の酪農乳業の将来指針にも当てはまられないか。新元号の令和は頭文字を取り「Rの時代」と称される。「R」はまず酪農。そして国連で国際目標とする持続可能性、つまりは強靭性を表すレジリエンスの「R」。さらには、選手が自主性を持ち役割を発揮するラグビーの「R」。難局突破へ3つのRの強固なスクラムが問われていると言っていい。

 2020年の今年は、酪農乳業界の今後にとって大きな転換点を迎える。1月1日には日米貿易協定が発効した。農水省の食料・農業・農村政策審議会の基本計画見直し論議も大詰め。さらには、昨年末には2020年度の畜産酪農政策価格、関連対策も決まった。「令和農政」の発射台が形作られる時期と重なる。

 こうした中で酪農乳業関係団体で構成するJミルクは、基本計画見直しの一環で農水省の新たな酪農肉用牛近代化方針(酪肉近)に反映させるため、酪農乳業将来戦略ビジョンを発表した。今後の酪農乳業の将来指針に位置付けるものだ。転換期のタイミングでの提案は、関係者の注目を集めている。

 ビジョンの提言タイトルは「力強く成長し信頼される持続可能な産業を目指して」。キーワードは持続可能性。国連が進める持続可能な17の開発目標を定めたSDGsへの対応も踏まえた。生活と健康に欠かせない食品を提供する酪農乳業を次世代に引き継ぐ。そのための条件整備を関係者が担う。業界が行うこと、国への政策支援も項目ごとに明記した。酪農乳業を生産者、乳業、国の「三位一体」で守り、発展させる方向性を示したものと言っていい。

 酪農と乳業はこれまで、飲用乳価交渉などで激しく対立してきた歴史も持つ。だが、業界全体の発展を目指す機運が高まっている。2019年度飲用乳価交渉で、酪農団体側のキロ7円以上の要求には届かなかったが、大手乳業が同4円の引き上げに応じたのは生産基盤の弱体化に配慮したことが大きい。酪農乳業の「運命共同体論」が比重を増す。
 最大手・明治の川村会長は元々、業界で長く唱えられてきた酪農乳業「車の両輪論」から一歩踏み出し「一体論」を主張してきた。車の両輪は、片方の輪が小さければ真っ直ぐ前に進まない。同じ大きさの輪でこそ前進するとの考えだ。「運命共同体論」の咲き毛家であり、先の乳価交渉値上げでも、経営決断した理由である。

 今後とも持続的発展に欠かせない視点は成長性、強靭性、社会性の三つ。令和の時代は頭文字から「Rの時代」ともされるが、強靭性はレジリエンスの「R」と見ていい。むしろ、度重なる災害や需給変動に耐え対応する柔軟性と言い換えることもできる。
3リスクどう回避
 酪農乳業を取り巻くのは3つのリスク。生産基盤の弱体化、相次ぐ貿易自由化、さらには改正畜産経営安定法に伴う「いいとこ取り」横行に見られる政策の不具合と言っていい。公的役割を担う指定団体の機能を改めて認識するとともに、農水省は責任を持って適正な制度運用に指導を徹底すべきだろう。

 改正畜安法で指定団体の生乳一元集荷廃止は、用途別需給調整の困難性を助長しかねない。個別酪農家が自己の所得増を追及すること積み重ねれば、結果的に飲用シフトが強まり用途別需給が崩れ全体の乳価水準が下がる。酪農家の離農が増え、ますます輸入依存に傾斜する。改正畜安法の冒頭に「需給の安定」を明記している。個別の用途別需給計画と全体需給とは整合性がない。問題はいかに全体の需給バランスがとるかだ。

 日米貿易協定で、乳製品は新たな輸入枠設定は免れた。だが11カ国による環太平洋連携協定(TPP)11の乳製品低関税枠7万トンはオセアニアの酪農大国があっという間に埋める。日米協議も当面の中間合意の性格が強い。今秋の米大統領選が終われば、またぞろ再協議を求めてくる可能性が高い。自由化リスクも一向に消えない。
関係者挙げ強固スクラム
 ラグビーに絡む3つ目の「R」。生乳増産へ何といっても重要なことは、政策支援が欠かせない。それと業界挙げた努力が相まってこそ、酪農乳業の将来が開ける。ラグビーは、それぞれの専門家が役割を果たすことで勝利への道を進む。同ビジョンでは家族酪農を核に多様な経営の展開を強調した。メガ、ギガ酪農と言われる大型酪農ばかりで産業の明日は見えない。そして関係者が強固なスクラムを組み、酪農乳業の展望と未来を築き上げていくことが重要だ。
(次回「透視眼」は2月号)