ふくおか県酪農業協同組合

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襲うメガFTAの巨大波 チーズ打撃なら影響
 巨大なメガFTA(自由貿易協定)が国内農業を襲う。輸出農畜産物の攻勢が日本市場を狙う。既にイオンなど大手スーパーは関税ゼロ先取りセールなども始めた。国内酪農は改正畜安法で揺れるが、生産者が団結して共販体制を強めて難局を乗り越えるしかない。
国内対策と予算措置
 政府は11月下旬、「環太平洋連携協定(TPP)等関連政策大綱」を決定した。いわば貿易自由化に伴う国内対策を示したもので、これを受け2017年度補正予算の編成作業を本格化する。特に、関税引き下げて影響が大きい畜産・酪農で万全の対策を示すべきだ。

今回の対応は、TPP大筋合意を受けて2年前に決めた政策大綱に、年内最終合意を目指す日欧経済連携協定(EPA)対策を加えた改訂版の位置付けだ。一応の対策は網羅したが、生産現場の懸念は消えない。米国抜きの11カ国によるTPP11大筋合意に伴う市場開放に加え、高品質チーズやワインなどブランド力のある欧州の輸出攻勢に、産地は不安を募らせているのが実態だ。

 十分な予算措置が不可欠だ。ただ注意すべきは、国内生産、特に食料自給率への影響だ。自給率45パーセントへの引き上げは国是のはずだ。基本計画の生産目標にどのような支障が出るのか。安倍晋三首相は「国難突破」を強調するが、自給率38パーセントに低迷する国内農業の弱体化こそが異常事態で「国難」そのものではないか。相次ぐ貿易自由化と食料安全保障の関係を改めて問いたい。早急に食料・農業・農村政策審議会を開き、識者の間で議論を深めるべきではないか。
影響度を情報公開せよ
 この間の通商論議を見ると、順番が逆ではないかとの疑問が一向に消えない。政府はまず、実態に応じた詳細な自由化影響度を示し、国内産地や生産者の打撃をできるだけ緩和する対策を示すべきだ。そうすれば、国会論戦でも対策の不備やより具体的な改善点が指摘できるのではないか。先の臨時国会の衆院代表質問でも希望の党の玉木雄一郎代表から「影響試算を先に出すべき」との指摘もあった。影響試算と対策効果を合わせて示したのでは、本当の問題点、課題が見えにくい。

 首相は、臨時国会冒頭の所信表明で相次ぐメガ通商交渉を念頭に、農業者の不安や懸念に「しっかり向き合う」とした上で「再生産へ十分な対策を講じる」と明言。水田のフル活用推進にも触れた。その具体的な答えは、まず大綱に盛り込まれた国内対策の裏付けてとなる予算措置だ。与党内には過去2年と同規模の3000億円台を望む声が大きいが、予算圧縮を求める財政当局との激しい攻防が予想される。首相の言う「十分な対策」は抽象的過ぎる。問題は生産現場が「十分」と評価できる内容にすることだ。
不満高まる米国農業団体
 TPP11では大きな積み残しの課題がある。米国抜きでも乳製品輸入枠7万トンがそのまま残り、牛肉のセーフガード(緊急輸入制限措置)の発動も事実上できなくなる。7万トンの水準は、酪農大国ニュージーランドが当初から要求してきた数字にに近い。一方で米国は来年11月に、事実上のトランプ政権の成果が問われる中間選挙を控え、年明けから「政治の季節」を迎える。今後、日米自由貿易協定(FTA)への圧力が一段と高まるのは避けられない。米国の農業団体からは牛肉、豚肉での対日輸出期待が高い。チーズ大国でもあり、製造の過程で出るホエイ(乳清)の輸出圧力も強まる可能性がある。たんぱく質含有量30パーセント前後のホエイは脱脂粉乳と代替でき国産乳製品と競合する。

日欧EPAが発効すれば、ブランド力で国内市場を奪われかねない。既に大手スーパーでは欧州産ワインの関税撤廃先取りセールなども組まれた。さらに脅威なのはナチュラルチーズの輸出攻勢だ。大綱でも国産チーズの競争力強化の支援策を前面に出した。それだけ国産チーズが、厳しい局面に立たされかねないと言うことだろう。チーズ需要を侵食されれば、農水省自らが旗振り役となってきた国産チーズ振興路線が停滞し、それだけ生乳の行き場を失う。
 このように、TPP、対欧EPAと立て続けのメガ通商協議は、特に畜酪に打撃を与える。
トランプ台風のすごさ
 相次ぐ国際通商協議の行方に大きな懸念を持つ。安倍政権は合意を急ぐあまり、国内農業者への十分な説明を欠いている。国内農業の生産基盤は大きな危機に立つ。市場開放下で、これまで以上に危機感とスピード感を持ち地域農業維持・強化の支援に乗り出す時期だ。  11月中旬、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合を前後した一連の国際会議が終わった。改めて思うのは、米国抜きの参加11カ国によるTPP11での対応に見られる市場開放を目指す安倍政権の「前のめり」の姿勢である。これでは、自由化が一層の自由化を招く連鎖の「自由化ドミノ」にならないか。
 特に、チーズをはじめとした乳製品や牛・豚肉など畜産・酪農への影響が大きい。現在、水田農業の柱の一つに飼料用米拡大をしているが、需要先である畜酪基盤が弱体化すれば政策矛盾となる。政府・与党はチーズ対策や牛・豚経営安定対策(マルキン)の拡充などを急ぐ方針だ。自由化加速で、国内農業の基盤がさらに揺らぎかねないことを憂う。
日本「4方面作戦」のリスク
 APECのやはり主役は米国第一主義を掲げたトランプ米大統領だ。象徴は、取りまとめが難航したAPEC首脳宣言である。「保護主義反対」を盛り込んだが、具体的な解釈は同床異夢なのが実態だ。トランプ氏にとって「保護主義」は米国にとって市場を閉ざす仕組みを指し、その先には「取引」を駆使しながら対米貿易赤字額の目に見える解消がある。一方で、米国以外の大半の国にとっては「保護主義反対」は多国間主義を意味する。それは互恵と協調につながる。

 日本の通商戦略は、メガ貿易協定を巡り多角化しており「4方面作戦」と言われる。TPPに加え、年内最終合意を急ぐ日欧EPA、日中印など16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、さらには日米経済対話である。前後左右の4方面で市場開放し経済成長を進める姿を描く。だが、自動車など製造業には有利でも、輸入農産物の増大で国内農業には打撃となる。
 今回、TPP11で大筋合意したとされるが、主要国のカナダが異論を提起し結束して最終合意し、署名できるのか見通しが立っていない。大きな問題は農畜産物の市場開放水準をそのまま容認した点だ。これでは「いいとこ取り」されかねない。
(次回「透視眼」は1月号)