ふくおか県酪農業協同組合

  • みるく情報
  • 透視眼
  • 求人案内
  • リンク
アクセス

透視眼

4月からの日米経済協議に要注意 安倍政権の農政改革加速も懸念
 米国発の「トランプ台風」が世界中に暴風雨をまき散らしている。政治的には4月が大きな節目になる。米国から副大統領が来日し、カウンターパートナー・麻生太郎財務相・自民党副総裁と日米新経済対話が始まる。万が一、FTAに持ち込まれれば日本は安全保障問題を背景に圧倒的な不利な交渉は避けられない。4月下旬にはトランプ新政権発足から「100日」が過ぎ厳しい批判を避けてきたマスコミの総反撃が始まる。こんな中で、日本の農政は半世紀ぶりの酪農制度改革に見られるような、急進的な改革ばかりが目立つ。これでは、かえって生産基盤が揺らぎかねない。
日米会談と通商問題
 首脳会談を経て日米間で安全保障問題と共に通商対応が大きな焦点となってきた。トランプ大統領が環太平洋連携協定(TPP)離脱の一方で、2国間交渉による貿易不均衡是正路線を打ち出しているためだ。これ以上の妥協は、日本農業に壊滅的な打撃を与える。TPP協定は既に参加12カ国で合意に達し、日本は国会批准も済んだ。関係者の間では合意事項の米、乳製品の輸入枠や牛・豚肉の大幅関税引き下げを〝大前提〟に、一層の譲歩を迫られるのではないかと懸念が広がる。いわば「TPPプラス」で自由化の深掘りの恐れだ。
 今回の会談で最大の項目は、輸出自主規制を含む自動車問題、為替対応、インフラ投資の具体策だろう。だがいつ農産物貿易に「飛び火」するとも限らない。農水省幹部は、トランプ政権が実際に機能するのはあと数カ月かかると見るが、警戒を緩めてはならない。米国の自由貿易交渉(FTA)は、欧州連合(EU)を離脱する英国と近く始まる。トランプFTA路線の始動と言える。「米国第一」のトランプ氏が唱える自由貿易の真意を東京大学大学院の鈴木宣弘教授は「米国が自由にもうけられる貿易のことだ」と読み解く。米国が圧倒的に競争力を持つ、金融、医療、先端技術、農業、軍事関連産業を売り込む一方で、足腰の弱い製造業は保護主義を貫き通す。
 トランプ政権の主要閣僚は先日来日したマティス国務長官など軍人出身、ウォール街の金融出身、そして極右メディア出身者ら。注視すべきは、米政権内部の従来とは異なる通商態勢の組み替え。ビジネスマン出身のトランプ氏のキーワードはディール(取引)。つまり「損得外交」で突き進む可能性が強い。通商交渉にも反映されると見た方がいい。
 貿易交渉を担ってきた米通商代表部(USTR)の位置付けが低下し、代わりにロス商務長官の役割が大きくなってきた。5月から始まる北米自由貿易協定(NAFTA)見直し交渉の責任者もロス長官が担う。同氏は投資家で企業買収・再建などを手掛け「交渉人」の異名を持つ。親日家でもある。ライトハイザーUSTR代表は中国強硬派だ。新設置の国家通商会議(NTC)トップにも対中強硬派のナバロ氏が就いた。実務・実利を重んじる商務省シフトをどう見るかも焦点だ。
 それにしても、通常国会冒頭での安倍首相の施政方針演説は米国に配慮し過ぎていないか。過去、現在、未来ともに日米同盟が基軸で「不変の原則」と強調した。だが肝心の米国の基本原理が変質しつつあり、世界はトランプ氏の「米国リスク」に大揺れだ。首相が日米同盟の深化を唱えるほど、安全保障問題と絡め米国の理不尽な主張に押し切られないか。
逆立ちの酪農改革
 目的と手段が逆立ちしていないか。酪農制度改革論議は、本来の目的である牛乳・乳製品の安定供給と酪農家の所得増大とは違う「迷路」に入っていないか。指定生乳生産者団体の機能を法的に位置付け、全量委託を担保しないと用途別需給の安定はできない。補給金の対象拡大を先行するあまり、肝心の酪農家の所得増に逆行しかねないことを憂う。 酪農制度を抜本的に見直すだけに、改正畜産物経営安定法案の内容によっては逆に酪農現場に混乱だけを招く恐れさえある。JA全中理事会で酪農改革の政策提案を決め、奥野長衛会長(中酪会長)が山本有二農相に要請した。与党との酪農制度改革緊急意見交換会で、生産現場の率直な懸念をぶつけたのは、この改革が果たして本当に所得増大につながるのか酪農家の不安が増しているためだ。このままでは、今後の国会審議で与野党論戦の大きな争点となるのは間違いない。
 国会論戦では野党側の意見も柔軟に反映すべきだ。そして農水省は生産現場の懸念を解消する法案と政省令を再考すべきだ。改正畜安法の目的規定で酪農経営の安定・所得増大を明確にすべきだ。拙速な見直しは「改悪」以外の何物でもない。一連の農協改革と同様の思いが募る。いったい何のための誰のための改革なのか問いたい。いま一度、立ち止まり熟考すべき時ではないか。
 拙速な見直しを無理強いすべきではない。問題は、全国の過半の生乳生産を占める加工原料乳地帯・北海道をはじめ、多くの酪農家が今回の制度改革に理解と納得をしていないことだ。
 制度改革は、バター不足や指定団体を通さない一部アウトサイダーの要望を受けた規制改革論議に端を発した。確かに指定団体の在り方で課題はあるが、現行制度の下で生産、処理業者、販売の互恵関係というミルク・サプライチェーンが確立してきた。北海道と都府県酪農のすみ分け、いわゆる南北問題も回避している。日々の消費者への国産牛乳・乳製品を安定供給も実現。国民レベルで関係者のウイン・ウインの関係が築かれている。現在の仕組みの土台を崩すべきではない。
早急に政策審議会畜産部会を
 なぜこれほどの酪農制度改革なのに農相と官僚は食料・農業・農村政策審議会畜産部会を開かないのか。これでは、制度改正で生処販さまざまな専門家から注文が出るのを嫌がっているとしか思われない。農水省の見識を疑う。

 現在の最大課題は「酪農リスク」(川村和夫日本乳業協会会長)とされる国産原料乳の安定的な確保だ。そんな中で、酪農家の納得しない法改正は新たな「農政リスク」と重なる。同一条件の競争であるイコールフッテングは規制改革推進会議の決まり文句だ。ならば、新たな補給金対象者と指定団体のイコールフィテングこそが厳格に問われるべきだ。
 全量委託を担保せず、部分委託を広げれば、日々変わる用途別販売調整、集送乳の合理化に大きな支障が出る。全農、全酪連の全国連再委託による広域的な需給調整や過剰時の指定団体連携の自主的な減産、計画生産が遂行されているのも現行の指定団体制度の機能発揮の証しだ。そもそも乳価交渉の強化は、全量委託を背景に一元集荷多元販売の中でこそできる。指定団体機能強化の明確化と、いいとこどりを排す部分委託のルール化は譲れない一線だ。具体的な政省令づくりはこれからだが、無理強いの酪農制度改革に加え、日米協議の行方で日本の食料主権が土台から崩壊することを懸念する。
(次回「透視眼」は6月号)