酪農離農が大きな転機を迎えている。中央酪農会議がまとめた6月末現在の受託戸数は9138。8月にも9000戸割れとなることが分かった。離脱要因は高齢化に加え、負債、将来不安も大きな課題だ。
写真=「このままでは仲間がいなくなる」との危機感を持ち、首都圏の酪農家が「令和の百姓一揆」でトラクターデモの先頭を走った(2026年3月29日、東京都内で)
酪農団体危機感「施策強化を」
酪農家の離農高止まりに生産者団体が危機感を強めている。
全国酪農協会の総会で隈部洋会長(全酪連会長)は酪農家の減少に改めて懸念を表明した。「非常に難しい経営環境の中で、この1年間で500戸近く減った。こうした傾向に歯止めをかけるため、必要な施策を政府・与党に訴えていく必要がある」と、酪農経営支援の強化を訴えた。
2025年度末の指定団体傘下の受託酪農家戸数は9251戸。前年度対比で94・9%。1年間で446戸もの酪農が離農したことへの政策対応が急務との思いからだ。Jミルクの副会長も兼任する隈部会長の発言には、牛乳消費低迷と脱脂粉乳在庫累増による生乳需給緩和の早期是正の認識も強い。
1万戸割れから2年、1000戸離農
「酪農家の経営離脱が加速している。2024年10月の指定団体受託戸数1万戸の大台割れから2年近く。秋までに9000戸割れとなるのではないか」「確かにこのままの推移で行けば、早晩、9000戸を割り込むことになる」
6月24日の中酪総会後の会見で、酪農家離農高止まりの記者の質問に寺田繁事務局長は秋までに受託戸数が9000戸の大台割れとなりかねないことに懸念を示した。
受託戸数1万戸割れで、中酪が酪農危機の現状を訴え大きな反響を呼んだのは24年12月2日の会見だ。50人以上のメディアが集まった。それ以降、国産牛乳の安定供給へ国民的な関心が広がった。25年8月の飲用乳価値上げなどもあったが、飼料代など生産資材の高止まり、脱脂粉乳の在庫削減など生乳需給緩和への対応で、生産者の将来不安も募り9000戸割れはついに“秒読み”段階に入った。
揺らぐ生産基盤、8月に8000戸台か
直近の受託酪農家戸数を見よう。別枠の約40戸強ある沖縄まで含む数字は月末にまとまる。最新数字である5月(6月末現在)は9138戸、前年度同期比で95・5%。9月末にまとまる8月受託戸数の数字で9000戸大台割れが濃厚だ。
問題は減少率と同時に実際の酪農家の戸数だ。4月が9214戸、同95.0%。やや緩やかになったのとはいえ、離農率が5%前後と高率なのに変わりはない。注視したいのは1カ月で76戸も減少している点だ。
都府県のうち、首都圏を抱え最大の酪農主産地である関東の受託戸数は1509、同94.1%。ひと月で8戸の酪農家がやめた。今夏には1500戸割れが確実だ。大消費地の生乳安定供給は北海道の道外送りの動向がカギを握る。特に生乳生産減の一方で需要が増え需給ギャップが広がる夏場の安定供給が大きな課題となる。
九州は892戸、心配な熊本「半導体バブル」と震度7「熊本地震」
九州の最新(6月末現在)の受託戸数は892戸、前年対比96・2%だ。
ここで懸念されるのは、熊本に進出した台湾メーカーの半導体バブル。日本経済にとっては好材料となるが、農業分野への悪影響も指摘される。
進出先が、西日本最大級の農業地帯、畜産地帯であるJA菊池管内だからだ。特に農業分野への労働力不足と、半導体生産が大量の水を必要とすることから地下水減少なども注視する必要がある。熊本は西日本最大の生乳生産を誇り、酪農離脱加速は、九州全体の生産基盤沈下に直結しかねない。
「トリプル減」全国9000、北海道4000、都府県5000割れ
酪農家戸数減の深刻度をより強めているのが、トリプル減、3つのマイナスが同時進行していることだ。
「トリプル減」とは3つの大台、全国で9000戸割れ、都府県で5000戸割れ、主産地・北海道で4000戸割れが同時進行している危機的な実態を指す。つまりは全国的な生産基盤の地盤沈下が起きているのだ。
直近の受託戸数9138の内訳は、沖縄44含む都府県5089、北海道4049。1カ月で76戸減った。特に大きいのが北海道だ。4月の4101戸から5月には4049戸になった。改正畜安法以降、北海道は非系統の自主流通グループの増加が目立っておりホクレン傘下の受託戸数がそのまま酪農離農とは限らないが、4000戸割れが目前に迫っているのは間違いない。
「後継者不足」に加え北海道離農「負債・将来不安」
酪農離脱の要因は何か。それによって、戸数減に歯止めをかける施策対応が探れる。
北海道農政部は「北海道における酪農経営の離脱状況」をまとめた。調査は市町村と連携して1年かけ26年2月1日の状況を把握した。対象は受託農家ばかりでなく、学校や試験場まで含めた生乳出荷者なので、全道の実態が分かる。
ここで注目したいのが離農要因だ。「高齢化、後継者問題、労働力不足」が42・7%と最も多い。経営転換、つまり酪農をやめ肉牛や畑作など品目を転換するケースも27・4%。一方で前回調査より減少したとはいえ、「負債問題」5・6%、「将来不安」8・1%の合計13・7%にのぼった。
中酪全戸調査「5年後」にも注目
中酪は26年度、全国酪農基礎調査を行う。ここで注目されるのは「5年後の経営」だ。
5年後、つまり近未来に酪農家がどういった経営を選択するのか。規模拡大、規模縮小、あるいは後継者のめどが立たず離農の選択肢をある。離農実態や離農理由なども調査するが、都府県ではやはり「後継者不足」「高齢化」が多いだろう。また人口減少社会に突入する中で「労働力不足」も深刻となる。
(次回「透視眼」は10月号)